柊樹家の方々

「本当にどうしようもない子ね……」


 伊織のお母さん──柊樹リンさんが隣にいる青年、伊織のお兄さん──柊樹真穂人まほとさんに声をかけた。


「全く、僕は恥ずかしくて外を歩けません」


 真穂人さんもそんな風にお母さんに言う。二人の視線は伊織の方を向いていた。


「失礼します」


 と、僕の目の前にはステーキやらスープやらが置かれていく。そう今は夕食が準備されている。僕の左に伊織、右にカケル、月海ちゃん、ナナちゃんが座っている。正面に座るのは真穂人さん。その横にリンさん。そしてその横にお父さん──柊樹正造しょうぞうさんが座っている。


「どうしてあんな風になったのかしらね」

「神様を恨むしかありませんね」


 二人の話し声は静かに、煩く響き渡っていた。内容はもう察せるだろうが、イオリへの嫌味だ。明言していないだけで、お前なんかいらない、邪魔だ、という旨の言葉が聞こえてくる。


 え? テンション低過ぎるだろ、って? 気のせいだよ、気のせい。


「……」


 二人に対してイオリは何も言わない。ただただ不快そうに、そしてつまらなそうに目を閉じている。内心「しょうもないことしか出来ない猿が」と馬鹿にしてるかもしれない。


「メイドちゃ〜ん! その子の夕食は抜きでいいわ」

「そうですねぇ。もっと上品になるまでは、ですね」


 は? と、僕は思わず目を見開いて目の前の真穂人さんを見る。目は合わない。まるで僕なんて眼中にないかのようにイオリだけを見ている。


「で、ですが……」

「構わぬ。それに貴様、そこの女に逆らうと首が飛ぶぞ」

「お嬢様。しかし……」

「もう一度言う。構わぬ。妾のことは気にするな」


 三度目はないぞ、とイオリは言い話は終わりだと言わんばかり目を閉じるとメイドさんは料理を引き下げた。


 イオリの前にだけ空白ができた状態で食事は始まる……なんて、許せるわけがなかった。


「イオリ、これ上げる」


 僕はそう言ってフォークも何もないイオリに慣れないながらもナイフで切ったステーキをメイドさんに頼んで、貰ったお皿に移し差し出した。


 一つだけ、言おう。僕は人生で初めてくらいお腹の底から激怒していた。


 ◇ ◇ ◇  〜柊樹伊織side〜


 妾は聞こえてくるに不快な思いをしていた。毎日聞いているはずなのに、今日は特に大きく聞こえる。あの猿共には客人なども関係ないのか、と思うがおかしなことでは無かろう。


「メイドちゃ〜ん! その子の夕食は抜きでいいわ」

「そうですねぇ。もっと上品になるまでは、ですね」


 と、雑音として処理しきれなかった言葉を聞いて妾は目を開けた。そこには準備されている途中の料理が並ぶ。隣にいたメイドは母上の言葉にどう対応すれば良いのか分からずオロオロしていた。


「構わぬ」


 とりあえず妾はそう答えた。もう一度メイドは何か言ってこようとしたが、本当に首が飛びかけないぞ?愚かな奴じゃの……


「三度目はないぞ」


 妾はそれだけ言い、話は終わりじゃ、と目を閉じる。はぁ、優しいのは喜ばしいが時と場合がある。せめて、後で部屋に持ってくるとかにしてくれんか。


 さてと、今日の夕食はないわけじゃが……まぁ、一日なら大丈夫じゃろう。明日こそはこんな所ではなくナルと何処か外で食べよう。


「イオリ、これ上げる」


 何処が良いかの、と頭の中で地図を拡げていた妾はその声に驚きながらも表には出すまい、と変なところで努力しながら目を開く。そこには、不器用に切られたステーキが皿に載っていた。

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