文化祭イン・ザ・メイド喫茶ウィズ月海
「お帰り、御主人様♪ 待ちくたびれたよ〜」
僕は今だけは自分が男じゃなくメイドという生命体だと思い込んでせっせと働いていた。江見さんが色気と愛嬌で客を引き込むのに対抗し僕は元気さと上目遣い、ぶりっ子で攻めていた。
「江見さん、変わるよ」
「あら、ありがと」
僕と江見さんが客を引き込む役なんだけど、何も考えずに引き込めば良いわけじゃない。このクラスは女子が少ないのでどうしても中が大変になるのだ。
だから途中からは僕や江見さんも中の手伝いをすることになった。交代でお客を案内をしながら料理を運んでる。
え、僕は運べないんじゃないのかって? まぁあの三本指で支えるのは無理だけど普通に持ってなら出来るからそれでやってる。運べたらいんだよ〜♪
「お待たせしましたぁ、御主人様〜」
もうそろそろお昼になる。そうなったら何が大変か。そう、もちろん現状より人があふれることになっちゃう。うぬぬ、全然休憩も出来ないや。
「交代しましょ」
「おっけー」
お客さんが途切れることがあるから正直中よりこっちの案内の方が休めて楽なんだよねー。ふぅ、僕と江見さんばっか案内してるけど良いのかな? 後で皆に聞いてみないとね。
っと、お客さんだ。
「お帰りなさ──」
僕の言葉はそこで止まる。お客さんと目が合った途端時が止まったかのように言葉がひっかかって……まさかこれが恋?!
「なわけなくて……えと、いらっしゃい月海ちゃん」
「な、ナル様?」
お客さんは月海ちゃんだった。女子だなー、とは思ってたけどまさか月海ちゃんだとは思わなかったのでびっくり。
でも多分月海ちゃんもびっくりだったと思う。僕は厨房にいるって言ってたからね……うぅ、知り合いに見られた途端恥ずかしさが。
「知り合い?」
僕の態度が急変したので察したのか江見さんが聞いてくる。僕は力なく頷いといた。月海ちゃんは黙って後ろをついてくるがどんな表情をしているか分からない。うぅ、恥ずかしいよぉ……
「ねぇ、めっちゃ敵視さてる気がするんだけど……」
そっと耳打ちしてくる江見さん。どうやら月海ちゃんは僕と親しげに話す江見さんを新しい
「どうぞー」
「そ、それじゃあね……」
僕は逃げるようにそそくさと調理スペースに引っ込む。月海ちゃんは何か言いたそうにしていたがふふっと微笑んでそれからメニューに視線を落とした。
「はぁ……」
「えらい落ち込みようね。そんなに嫌なの?」
後からついてきた江見さんは不思議そうに首を傾げるけど……当たり前だよ! 僕、男の子だよ?! それなのにメイド服着てあんなことしてたなんて知られたら……うわぁぁあ…………!!
「まぁ、少しは分かるけど」
「オーダーはお願いします…………」
僕がそういうと江見さんは「はいはい」と言って出ていった。はぁ、どうしよ。月海ちゃんが出ていくまで待つ? でも他の人大変だし……何より月海ちゃんを嫌ってるみたいになっちゃう。
「行くかぁ……」
僕はそう言って調理スペースから出る。丁度月海ちゃんは江見さんがオーダー取ってるから僕のことは見えてないはず……
今のうちに、と僕は入口で案内を再開しようと思ったのだが、嫌なことは続くみたい。
「お帰りなさい、御主──」
「ん、ナル?」 「えっと……似合ってるわよ?」
…………うわぁぁあ! おしまいだぁ!!
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