ダンジョンボス(←僕は死にかけました……
「ブォォーーンッ!!」
的な声が鳴り響いたと思う。なんでこんな曖昧なのかって? それはうるさすぎて聞き取れなかったから。耳元で叫ばれると逆にその内容が分かりにくいのと同じ。しかも動物の鳴き声なんだから文字で表現するのはもっと難しいんだよ。
「んじゃあ僕は隅っこの方でじっとしてるね」
「本気でそれ言ってたのか……まぁいいけど」
僕等はそれだけ言うと別れる。僕はこの部屋の隅っこに、カケルはダンジョンボス──オークキングの下へと。多分カケルは死なないと思うけどもしカケルが死んだら次の標的は僕になっちゃうよね……うん、何としても勝ってもらわなきゃ。
「ナルッ!!」
カケルの声に振り向くと真後ろにオークキングがいた。手に持つ斧を高々と振り上げ今にも振り下ろしそうだ。恐らく……というか絶対にあの斧は僕の頭をかち割っちゃうだろう。
「い、やぁぁぁーー!!」
目の前の現象を自分事に理解した瞬間、僕は後先考えずにしゃがむ。ほぼ腰が抜けて尻餅ついただけだけど……しかしそれが功を奏したのか僕の頭をパッカーンと割るはずだった斧は頭上の壁に亀裂を入れた。
「ブモォォッ!!」
再び僕を殺ろうと斧を振り上げたオークキング。今度こそ死んだ──と僕はギュッと目を瞑る……がいつまでも終わりは訪れない。恐る恐る目を開けると僕の前にカケルが立っていた。手に持つ刀で斧を受け止めている。
「ブォォ!」
「ッ!」
再びオークキングが斧を振り上げた瞬間、カケルは短く息を吐くと刀を下から上に一閃。斧が降ってくるよりも速く正確に命を奪う一撃だ。オークキングはゆっくりと後ろに倒れ……動かなくなる。
「かっこいい……」
思わずこう呟いてしまうほど、きれいな動きだった。素人の僕でもすごいと思える剣技……魔力適正は1なのにそれを感じさせない力。すごいな。
「はぁ、大丈夫か?」
「助かったよ。ごめん、モンスターが弱いやつから狙うのは常識なのに」
ただでさえ無力な僕は知識だけは人一倍あろうと必死に勉強した。なのに「モンスターが弱いものから狙う」という基礎中の基礎、数学の正負と同じレベルの知識を忘れて殺されかけるなんて。本当に僕は冒険者に向いてないのか、と思っちゃう。
「まぁいい。魔石だけ採るぞ。数分は時間ある」
「え、いいの? 僕はカケルについてきただけなのに……」
「いいよ、別に。俺はそこまで薄情じゃねぇ」
魔石とは、ダンジョンに生成される鉱石の一種である。一g程度の欠片でも高純度のものだと三人家族が二日間暮らせるレベルのエネルギーを秘めていて希少価値は高い。冒険者の生計はこの魔石の売買によって支えられているようなものだ。
だから、大抵の冒険者は魔石を独り占めしたがる。カケルの、というか学校の異端児の噂の中にも「魔石を独占し、文句を言ったやつは殺される」なんてものもあった……
けど、実際のカケルはこんな僕にも分け与えてくれるらしい。うん、噂は所詮噂だね。ていうか普通にカケルは良いやつで優しいやつだ!
「早くやれ〜。時間なくなるぞ」
「うん、今やる〜」
ダンジョンはボスを倒すと自動的に消滅してしまうのでこの消滅までの数分間に魔石をできるだけ多く採るのだ。ボス倒す前に採ればいいじゃんって思った人……それは馬鹿のやることだよ〜。だって魔石はとっても重い。そんなの持ってボスと戦えませ〜ん。あーゆーオーケー?
「カケル〜。鉱石が硬くて採れな〜い……」
「テメェは女か! 早くやれ」
持参のツルハシを魔石にカンカンぶつけるたびに手が痛い。しかも全然削れないし、カケルは優しくないし……これだから魔石採りは苦手なんだよ。
「はぁ……疲れる〜」
魔石を取りながら、さっきのカケルを思い出す。何度思い出しても「かっこいいなぁ」と思ってしまう。ふと、今日で退学するつもりだった自分を思い出した……ちょっとは悩んでもいいのかな──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます