ハリボテの白龍

 もう別にしなくても良い可能性がある食料調達をしながら僕とイオリはのんびり話していた。毎秒増える得点。もはやこのカウントが追いついてないじゃないの、これ……


「ギャアァァアァ!!」


 と、森に木霊す叫び声。それも一つじゃない数人の叫び声だ。それを聞いた僕らはどこ吹く風。相変わらずのんびり植物を摘む。


「お主のハリボテシリーズは本当にすごいの」


 っと、イオリから賛美が飛んできた。珍し! なんて言ったら即刻氷漬けにされちゃうかもしれないから言わないけど……


「ふふん。リンさんにも効果大だったからね」


 ハリボテシリーズ。それは僕の魔法のことだ。リンさんたちに使ったナイフや斧もハリボテシリーズの一つ。え、攻撃魔法は使えないんじゃないのかって?


「回復魔法の光の形を変えているだけだからね♪」


 そう、魔法はイメージ。なら形も自由なんじゃないかなって思ったんだ。それであのとき、真穂人さんを脅すときにやってみたら出来たんだ。それから練習を重ね、今では……


「おいで、白龍」


 そう呼ぶと、森の中から白い龍が現れる。西洋の、いわゆるドラゴンではなく、アジアの龍。胴が長く短い手には紅く輝く玉のような物を持っている。鯉と蛇を混ぜて倍にした感じだね。


「攻撃しても、逆に回復する……まさに見せかけ。ハリボテじゃのう」


 実は命名主はイオリなんだ。だから本人もこの技がお気に入りなのか上機嫌だ。さてと、そろそろ白龍にも戻ってもらわないと……戻っていいよ、と言うと白龍は再び森に入っていった。


「白龍がこの周辺をグルグル回ってくれてるからね、僕達は安全に食料調達が出来る」


 まぁ、その食料調達も意味はなさそうだけど。既に得点は1585点。もう三分の一を切っちゃってる。時間的には四十分は経ったかな。そろそろお腹も空いてくる頃だけど……


「食べる?」

「いや、終わったら妾の家で食べれば良かろう」


 というわけで、この三人分だとしても有り余る植物食料をどう処理しよう。そのへんに置いといても良いんだけど、命は大事にしないと……摘んだんだから食べるのが筋だ。


「……面倒じゃのう」


 金持ちのイオリには分からない感覚なのかな。ん、ごめん。嫌味みたいになっちゃった。そ、そんなつもりは無くてね。えーと、えと、ごめん!


「良い良い。ナルの性格は知っておる。嫌味なんて思うわけなかろう」


 ふふふっ。最近、イオリの角がとれて丸くなってる気がする。最初はあんなにトゲトゲしてたのに。


「ふむ、まぁそうじゃのう。そういうナルは相変わらずその容姿に不満があるのじゃろう? 妾は良いと思うが……すまん」


 僕がジトーっと見るとイオリは頭を下げた。まだ何も言ってないのになぁ。それに、僕はね自分のこの可愛さはもう神様から授かったものだと思うようにしたからね♪


「な?! もう怒らんのか?」


 目を見開いてくるイオリ。むぅ、そんなに驚かなくても良いじゃん。でも、まぁ仕方ないのかな。とりあえず、僕は女の子と間違えられるのはそんくらい僕が可愛いってことだから、仕方ないかな〜って思うよ。


「初見……二度目からはどーするんじゃ?」

「僕のハリボテシリーズが火を吹くよ」


 僕はニヤッと笑いながら周囲に二十個近くのハリボテ剣を創造する。色まで再現されたソレは何も知らない人から見れば本物にしか見えないんじゃないかな?


「色まで変えれるようになったのか……?!」

「うん。僕の回復魔法の光は白なのにナナちゃんは緑だったのが気になって、色もイメージ次第なんじゃないかなって」

「お主が攻撃魔法に適性がうて良かったわ」


 僕はイオリの言葉にふふっと笑った。

 カイナ隊のカウントが既に1935点に達しているのに僕とイオリは気づいてもなかった。

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