不毛な争い

「マジでだりーな」


 隣の萌葱君はそう呟いた。もう私も何も言わない。何故ならそれが事実だからだ。源対梯谷の戦いは未だ続いていた。ナル達はもう準備中らしい。


「ぜってー、劇の方が良い」

「何で? 劇だったら舞台出れない人もいるでしょ」


 私と萌葱君だけじゃない、ツートップの争いにうんざりしているのはクラスの大半だ。彼らの取り巻きを除けば全員と言ってもいい。


「あの、多数決っていうのは……」


「ダメに決まってんだろ!」 「馬鹿なの?」


 実行委員の人はどうやら生徒会に催促されているらしく若干焦り気味だが結局二人に怒られ萎縮してしまう。まるで私達に怒られた後の萌葱君のようだ。


「うるせぇ……」


 はいはい、ごめんなさいね。


 どうせあの二人の言い合いは続くだけなのでここで二人の言い分を整理してみよう。まず二人が共通していて最も理由として大きい部分だが、


「自分たちがしたいから、だろ?」


 そう。詳しく言うと自分たちが提案したもので自分たちがリーダー、中心になってやりたい。そんな自己満足な理由が本音の部分にあるだろう。


 次に建前だが、まず源から。


・練習すれば出来る

・皆で一つものを作れる


 この二つが彼女の建前的な言い分。次に梯谷。


・練習すれば出来る

・したくない奴は裏方、準備だけでいい


 この二つ。

 二人とも共通して最初に「練習すれば誰でもできる」と理由を言った。ここは全く同じ言い分なのでイーブンってことですぐに次に移った。


 どっちも理由としては素晴らしい。本当に心からこう思って主張してるならもっと早く決まっていたと思う。が、結局発言の端々に最初の本音が見え隠れするので全員どっちも推す気になれないのだ。


「多数決で良いじゃねぇか。お前らの主張は分かったからさぁ」


 遂にしびれを切らしたのか萌葱君が言った。学校の異端児の二つ名を持つ彼に二人は僅かに口を噤んだ。しかし流石はスクールカースト上位者の方々、すぐに言い返そうとして──


「早くしてくれませんかねぇ。副会長がうるさくて」

「うるさいってなんですか。悪いのはどう考えても会長でしょうし」


 そんな二人の声に阻まれた。

 私はその二つの内一つの声を聞いたことがあった。聞いただけでも体中を虫が動き回る感覚くらいゾワッとするこの声は──


「酷いなー、ナナ」

「生徒会長…………」


 変質者兼ストーカーの変態の異名を持つ生徒会長。こんな人が生徒会長で良いのか、と結構本気で思ったりしている超が付くほどの変人……


「どうせコイツが悪いんだろうから今回は目を瞑るけど、先輩にその言い方は直せよ」

「は、はい。すみません……」


 あの人は確か副会長……規則に厳しく真面目な性格だった気がする。でも、会長と言い合ってるところを見ると冷酷な人ってわけではなさそうだ。


「そ、それで本日はどのようなご要件で……」

「催促に決まってるでしょう? 早く決めてもらわないと貴方方のクラスは出し物なしということにさせて頂きますよ?」


 副会長の迫力に気圧され、クラスの統括でただでさえ疲労しているであろう実行委員は泣きそうになっている。あれは流石に可哀想ね……


「ってことでナナ。司会やれ」

「は?」


 意味不明なことを言われつい失礼な発言がでてしまった。副会長の視線が痛いが今のは仕方ないでしょう……


「とりま早くしろ。どうせお前が一番適任だ」

「職権乱用ですか?」

「ははは。気にするな」


 ……私が適任というのはよく分からないけど、やれとトップに言われたらやるしかないわね。仕方ない、こんな面倒事さっさと終わらせてやる……

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