勝負あり(遺恨なし、とはならないよね
「妾が魔核とやらを向き出しにする。じゃがその間、触手を抑えることは出来ん」
「なら私が対処するわ。あとは誰が魔核を壊すかね」
「俺だろ、その役目は」
どんどんそれぞれの役割が決まっていく。けど、その中にも一つ懸念があった。それは勿論……
「カケル、本当に大丈夫? その腕」
僕はカケルの右腕を見ながら言う。というのも、カケルの右腕はほぼ肩から先がなかった。あの時、僕を庇った時に吹き飛んだんだ……
「僕のせいで──」
「ナルのせいじゃねぇよ。俺も気付けなかったしな」
「でも──」
「それに見ろ。止血してあるから問題ない」
カケルの右腕の先は炎で包まれていた。カケルの
「気にすんなって。とりあえず先に敵を倒すぞ」
刀を床に突き立てワシャワシャと僕の頭を撫でながら笑うカケルは右腕が吹き飛んだことなんて感じさせない……
「はぁ……カケルは頑固だね。ん、それじゃあ反撃と行こっか♪」
「それで良い」
よし──と僕は切り替える。カケルの心配は後だ。
「良いか? 勝負は一瞬じゃぞ」
「ええ、いつでも良いわ」
「任せろ」
「頑張れ〜!」
皆それぞれの役割は果たす為に敵──妖夢を見据える。え、僕? 僕は応援だよ〜、ってそんな事は置いといて。今は戦いに集中しなきゃね。
「行くぞ!」
柊樹さんが叫んだ瞬間、妖夢を覆っていた薄氷が消え触手が伸びてくる……
「遅いわね」
伸びてくる触手に向かってナナちゃんが両手を突き出す。それだけで触手はバラバラになり魔力へと還元されていく。相変わらずたこ焼きのたこみたいだ。
「魔力の流れを……ここじゃ!」
柊樹さんが叫んだ瞬間、妖夢に直径十センチほどの穴が空いた。その奥には紫色の何か──恐らく魔核──がある。あとはアレを壊せば。
「行きなさい!」
その穴にたどり着くのに障害となり得る触手が全て切り刻まれる。その直後稲妻のように影が動き──
「終わりだ」
影──カケルが止まった頃には魔核に刀が突き刺さっていた。聞いたこともないような甲高い声(?)を上げて妖夢が触手を伸ばす……が。
「妾に任せよ」
魔力干渉を完全に体得したのか、柊樹さんが前に出ると同時に触手が全て崩れ去る。魔核も再生しないように
「そうじゃな。じゃが、恐らく魔力適正が相当高くないとおえん。菜奈でも出来んじゃろ?」
「えぇ、そもそも魔力を感じる? とやらが分からないわ」
おぉ……つまり今回勝てたのは柊樹さんっていう最強の魔法使いがいたからなのか。
「どっちかと言うと魔力干渉について知っておったナルの功績の方が大きいんじゃがの」
フフン、そう言って貰えると照れちゃうな。でも、あの知識は一体どこで知ったんだろ。思い出そうとしても思い出せない。元から知っていたみたいな感じがするけど……あり得ないんだよなぁ。
「おい、魔石採らねぇのか? まぁ、疲れてるけど」
そういえば、妖夢の魔核は破壊したから倒した判定なのか。魔石は……疲れたからパスで。僕は何もしてないようなもんだけど、それでも疲れるの!
「そっか……」
「お前もなってみるか?」
「萌葱!」
「萌葱君!」
柊樹さんとナナちゃんが僕とカケルの間に立つ。疲れているはずの二人が思わず動いちゃうくらいには、今さっきカケルから発せられた殺気は凄まじいものだったから……
「悪い……」
カケルは謝ってくるけど……まぁ仕方ないよね。僕も無神経なこと言っちゃったかもだし。
「傷口だけは塞いでおくわよ。火、消して」
ナナちゃんがカケルの右腕に手をかざす。キラキラと淡い光がカケルの右腕──傷口というより斬口──に注がれる。回復魔法、かな。
「後は……包帯ね」
光が消えると今度はナナちゃんが包帯を取り出しテキパキと巻いていく。いや待って、今はそんな場合じゃないけど……その包帯ってどこから出てきたの?
「気にするでない。そういうものだと思っておけ」
と柊樹さんからお達しがあったのでとりあえず見なかったことにしよう……うんうん、と一人で頷いていたらカケルの介抱が終わったみたい。
「そろそろダンジョンも崩壊するわよ」
ナナちゃんが言い終わる前に視界が光に包まれる。ダンジョンから出されているのだ。相変わらず眩しいなぁ、と明るく思ってみたけど……やっぱり心の奥ではモヤモヤがあった。
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