やっとこさ

「ということでまずは情報の整理からね」


 菜奈が教卓に立ち俺らを見渡す。ちなみに実行委員と言い争ってた二人は生徒会長の指示で座らせられている。


 ふぅ、やっとマトモな話し合いになりそうだな。


「まず、出ているのは『演奏、ダンス』と『演劇』」


 菜奈はそういうと一度教室を見回す。


「この中で楽器関連、ダンス関連についての有識者は手を挙げてもらえるかしら?」


 菜奈がしたいことは俺を含め多分教室の誰も分からなかったがとりあえず数人が手を挙げる。驚きなのは源とかいう奴が手を挙げなかったことだ。

 アイツ、やったことないのに言ってたのか……


「じゃあ聞くけど大体人前に出せるレベルになるまでどのくらい練習すれば良いのかしら?」


「えっとぉ、人によるけど……結構かかるよ? 多分皆初心者だから一ヶ月くらい?」


「ダンスもマジなやつは結構かかるだろうな。簡単なやつなら出来るけど、何の捻りもできないから他クラスに比べて見劣りすると思う」


 菜奈の質問にさっき手挙げてた奴の中の二人が答える。それを聞いた他のクラスメイト同士でも何か話してるのが聞こえる。さっきまで通夜みたいなムードだったのに……


「で、でも! だから演奏と合わせて出来そうな方を……」


 発案者の源がしびれを切らしたのか勢いよく立ち上がるが彼女に突き刺さるのは冷たい視線だけだ。唯一彼女の取り巻きたちが心配そうな視線を送ってる。


「はいはい、まぁじゃあ一回保留で。次、演劇の経験者さんはいるかしら?」


 次に菜奈は演劇に話をすり替えたがこっちは誰も手を挙げなかった。がしかし、菜奈は一切焦った表情をしない。


「そう、ならこのまま話を進めるけど。会長、レンタルショップの在庫って分かりますか?」

「それについては俺が。今朝の時点で劇の衣装は在庫切れでした。ついでに言うと楽器のレンタルできる場所が近場にはないので少々厳しいかと」


 菜奈の質問におそらく菜奈が欲していた答えが返ってくる。おそらくだが発案者二人はその事実を確認してなかったのだろう、目を見開いてる。


「そういうことで案二つは却下で。新しい案だ──」

「ちょっとまってよ!」「ちょっと待てよ」


 ──面倒くさい奴らだな。


 そう思ったのはおそらく俺だけじゃないだろう。菜奈がいちいち遠回りしてまで丁寧に却下の理由を示したってのに……

 梯谷はともかく源は有識者の意見からも出来ないってのは分かると思うがな。


 視界の隅で実行委員が立ち上がろうとしたのが見える。こういう時のまとめ役……と言いたいところだが菜奈の方がそういうのには適してる。


「黙ってくれる? 貴方たちの案は出来ないと証明されたのよ、頭悪いのかしら?」


「んな……!!」 「っ畜生、覚えてろよ」


 そう言って二人が教室から出ていく……って出ていったのか?! えぇ……


「さて他の案だけど……」


 うわーお、驚きなことに我らが菜奈さんはフル無視なようだ。クラス中から決して好ましいものではない視線が集まっている──生徒会長のみ興味深そうに見ている──ようだが本人はどこ吹く風……


「今もスマホを突いてる人、いるでしょう? それで検索してほしいのだけれど……」


 菜奈の発言に今度はクラス中が静まる。一応いうが魔学も基本的にスマホの使用は禁止……おいおい、菜々さん苛ついてませんかね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る