僕が作戦を考えなくなった日(←僕の努力がぁ……

 今日は本戦第一試合だ。各ブロックから二チームが本戦にしゅちゅ──出場できる。ん、噛んでないよ。何のことやら……

 ってそうじゃなくてー。今日の第一試合は……


「本戦、第一試合。カイナ隊VSチーム神奈木かんなぎ


 そうそう僕らなんだよね。対戦相手はBブロックの勝者、チーム神奈木。四人編成で炎魔法と風魔法を主に使うチームだった気がする。


「いつの間にそんなの調べたんだ?」

「実は柊樹さんの超小型ドローンで毎試合録画してたんだ〜」


 それを見返してちゃんと対戦相手の癖とか洗い出した。そして、この僕が考えた完璧な作戦がある。


「ふむ、何じゃ?」

「まず、相手は最初に絶対、火球ファイヤボール使ってくるから、それを柊樹さんの魔法で防いでる間にカケルが斬る」


 これは多分間違いない。予選はトーナメントじゃなかったから分からないけど、全チームに対して炎始まりの波状攻撃を仕掛けてたからね。だから、最初に突っ込んじゃうカケルは一回待ってから……


「そんな面倒なことする前に斬れば良くね?」

「え?」


 カケルがとんでもない事言い出した。だって相手は試合開始直後に魔法を使ってくるんだよ……カケルが近づく前に殺されちゃう。


「んなわけねぇだろ。どーせ、伊織よりも発動までの時間は長い。よゆーよゆー」

「うむ。此奴は妾と対人戦でほぼ互角じゃ。ナルには悪いが、面倒なことはせん方が良いと思うぞ」


 えぇ……と僕は思わず声を漏らした。昨日めちゃめちゃ必死に考えてきたのに。戦えないからせめて作戦は練ろうって思って頑張ったのに。味方が強すぎてゴリ押しで勝てるとかマジで言ってるの?


「それでは……戦闘開始!」


 マズイ、まだ作戦決まってないのに試合が始まっちゃった! どーしよ、このままじゃ……


「グッ──」


 僕がテンパってるとそんな声が聞こえてきた。声の方を向くとカケルがリーダーと思わしき男ともう一人の男を斬り伏せていた。え、ちょ……え?


「妾の番じゃな」


 隣からそんな声が聞こえたと思ったら、氷塊が残りの相手の胸を貫く……って、え?


「勝者、カイナ隊!」


 …………は? え、ん、何が起こった?


「な、言った通りだろ」


 そう言って帰ってくるのはドヤ顔のカケル。


「後ろの奴ら、無防備じゃったな……つまらんのぅ」


 そう言って嘆息するのは柊樹さん……って、え。何、今の一瞬で勝負着いたの? 僕の作戦は本当に無意味だったってこと? え、は、え?


「おーい、ナル? 何、呆けてんだ」

「いい加減慣れんか。仮にも妾たちはトップクラスなんじゃぞ……」


 二人して呆れたような顔して見てくるが、仕方ないでしょ! 味方が想像の十倍くらい強かったんだから。何これ、毎試合こんな感じになるの? 絶対同学年に敵いないじゃん。


「同学年どころか……」

「学校内におらんじゃろうな」


 いや仲良く言ってる場合か! 優勝目指すぞ、とか意気込んでたけど全然余裕そうじゃん。えぇ。僕何もしなくても優勝出来ちゃうじゃん、冗談抜きで。


「アハハ。まぁ、仕方ない。人選ミスってことだ」

「贅沢な悩みじゃのう」


 はわぁ……これはどうやって僕が貢献するか考えなきゃなぁ。うん、我ながら本当に贅沢な悩みだね……


 ◇ ◇ ◇


「はぁはぁ……ひぃ……はぁはぁ……」


 僕は今、柊樹さんのジムに来ている。柊樹さんの特権が発動して僕は無料で使えるようになったので学校終わりに毎日通っているのだ。今日、別に僕が頑張らなくても優勝できることが証明されたけど、まぁそれとこれと話が別。


「頑張るのじゃ〜」


 隣には柊樹さん。優雅にソファーで寛いでいる。オレンジジュース……ちょっと可愛いな。


「おー? 余裕そうじゃな。よし分かった。もう少し速度が出せるやつのところへ──」

「ちょ、ちょっと……待って! 死んじゃう……」


 柊樹さん、鬼か!

 あ、今はトレッドミル使ってるんだけど……足が限界だぁ! あ、トレッドミルってのは通称ランニングマシンって言われるやつで……うぐぅ、走ることに集中しないと足がもつれる。


「もう十分は走って……るん、だけど?!」


 ここに来てからずっと走り続けている。あ、たったの十分? お前、これからジム行って十分間、最高速度で走ってみろよ! 僕の辛さが分かるぞ。ついでに友達に隣でジュース飲んで寛いでもらってごらん! 僕の、気持ちが、よく、分かると、思う。


「もう五分程度で終わらせてやるから頑張るのじゃ」

「嘘〜……無理だよぉ」


 はわぁ、明日は柔軟かぁ……なんかジムのコーチいわく毎日筋トレは逆効果らしい。休ませてあげるのも大切なんだって〜。だから、筋トレしない日ができるんだけど……柊樹さんが柔軟やらせてくるんですぅ。泣きたい。


「頑張るのじゃ〜」


 隣で優雅にオレンジジュースを飲む柊樹さんの声を聞き流しながら、僕はひたすらに足を動かし続けた。

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