狩りの時間

 俺──萌葱翔月──は残像を残しながら走っていた。その速さは以前とは比べ物にならない。というのも、俺のこの人間離れした身体能力の高さの原因が分かったからだ。


「カケルってさ、無意識で身体強化の魔法を使ってるんじゃないかなって。こう、魔力を自分が纏っていてぐわーって力が出てる感じ?」


 今日の朝、ナルに言われた「身体強化の魔法」とやら。魔法に関しては俺はよくわからないのでそのまま「ふーん」くらいで終わらそうとしたんだが……


「多分、カケルのイメージ次第ではもっと強くなると思うよ♪」


 という言葉が俺の少年心に、漢のロマンを求める衝動に火を付けた。それから投稿時間ギリギリまで柊樹ジムで特訓。コーチのジムには世話になったぜ。


「おかげで完全に体得出来たし、ほんと感謝だな」


 というか、ナルは自動回復永続バフだったり俺の身体強化の魔法だったり……昨日の夜、色々考え過ぎだろ。何があったのやら……

 いやあいつが何か考えるのはいつものことか。電話したらいっつも何か考えてる途中だ。


「ん? 今なんか通ったか?」

「気のせいだろ」


 昨日の夜のナルを想像していると、そんな声が後ろから聞こえた。やべ、周り見ずに突っ走ってた……


「は?」


 素っ頓狂な声を上げて首が落ちる。安心しろ、俺じゃない。先程通り過ぎてしまったチームの内の一人だ。顔も名前も知らない。そもそも俺はクラスメイトが何人なのかさえ知らないが。


「ヒッ……! 学校の異端児」

「おぉー、懐かしい名前だな。最近、俺の周りは賑やかだから小せぇ声は聞こえてなかったぜ」


 ハハッ、と笑うと距離を詰め肩から斜めに真っ二つ。コイツも「え?」と言って死んでいった。ふと、周りを見渡す。コイツら二人以外人影は見えない。ん? 二人、チーム……?


「燃えやがれ!」


 俺が違和感に気づいた頃、背後から火炎球が飛んでくる……! 頑張れば避けれたけど、避けたら攻撃してきた獲物てきを逃すことになる。全力で頑張る、それが作戦なんだから全力を尽くさないと。


「あっつ!!」


 火炎球に皮膚触れた瞬間熱さに思わず声を出してしまった。そんな俺を嘲笑うかのように火炎球は俺を包み込み、大爆発した。そして俺は──


「……やったか?」

「ケホッケホッ……熱いし耳が痛え」


 ──俺を倒したことに舞い上がりかけている目の前の敵を嘲笑うかのように土煙の中から出る。結構余裕そうにしているが、中々に死んだと思った。


自動回復永続バフコレがヤバいんだよな」


 俺の皮膚が焼けそうになった瞬間、痛みが引いた。火炎で視界が奪われていたので分からないが、ナルの回復魔法と同じ感覚だったのできっと自動回復永続バフのおかげだろう。既に耳の痛みとかもない。


「安心しろ。前までの俺なら死んでたさ」


 以前の、ナル風に言うなら学校の異端児ボッチだった時の俺なら、な。


「閻魔神楽」


 俺は母さんの刀と俺の刀を交差させるように敵の胸板を抉る。母さんの、というか萌葱家に伝わる『閻魔流』っていう厨二病っぽい技を俺が二刀流に適応したのが『閻魔神楽』だ。厨二病? 斬るぞ。


「カッ……!」


 血を吹いて倒れた敵の生死を確認する。よし、死んでるな。次、行くか──


「向こうも頑張ってるんだろうな」


 俺は頭の隅でアイツの事を考えながらも地面を蹴る……今は自分の役目に集中するか。

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