第120話 俺、久々にワンパン配信をする


「では、今日はキングブーの討伐配信です!」


 久々の配信にコメントは大盛り上がりだ。最近は案件の動画ばかりだったし、俺もプライベートで忙しかったこともあってあまりSNSの更新もできていなかった。


「みんな〜久々だね〜。今日もよろしく〜」


 音奏はコメントの要望に合わせてシバを抱き上げると歓声ならぬ投げ銭が上がった。


「キングブーはとにかくデカくて強い豚のモンスターですが、おそらく1発で行けるはず……ということで討伐配信行ってきます!」


 キングブーがいるダンジョンは、キャンプにかなり適した「森林型」のダンジョンだ。入り口はただの洞窟なのに、足を踏み入れるとそこには木々が鬱蒼と生い茂り、生態系が築かれている。

 

<自然派ASMRやんけ>

<いいね〜、癒し>

<これはキャンプしたいわ>


 SSS級ダンジョンなので珍しい小動物や植物もわんさかあるのだが、一旦無視してキングブーがいる最深部まで足をすすめていく。


「音奏、虫とか平気か?」


「あ〜うん。私、G以外は大丈夫な人だから」


「なるほどね。毛虫とかいるし嫌ならシバのもふもふに隠れておけよ」


 音奏は「毛虫」と聞いてゾッとしたのか巨大化したシバの上に乗っかってもふもふの中にそっと身を隠した。

 ちなみに、格好つけている俺は虫があまり得意ではない。単純にビジュアルが好みではなくて、小さい頃は周りの男の子がカブトムシに熱中している理由がまったくわからなかったっけ。


「なぁ、英介。ブー食ってもいい?」


 シバがスンスンと鼻を鳴らし、舌なめずりをした。すると、俺たちの周りに隠れていた何かが一目散に逃げていく。


「腹一杯になるぞ」


 ブーというのは豚型のモンスターでキングブーよりも二回り小さい……いわばちょっと凶暴なイノシシくらい。ちなみに、腐ってもSSS級なのでブーに殺される冒険者も過去にはいたはずだ。


「いや〜、けど英介くんが来ると雑魚モンはみんな逃げちゃいますね〜。さすがは私の彼ぴ」

 

 森を抜けたからかシバの背中から降りた音奏が俺を揶揄うようにつつく。俺は照れつつもコメントを見て吹き出した。


<おい、めろちゃん。英介は俺のだ>

<のろけやがって、投げ銭してやる!>

<照れてる英介かわいい>

<本体映せ>


「ちょっと〜、私も可愛いってほめてよ〜」


 駄々をこねる彼女が可愛いなと思いつつ、コメントのいじりセンスが良くて安心する。ありがたいことに俺たちのファンは「ガチ恋」が非常に少なく、厄介なファンもほとんど消え去っていた。


 コメントと会話をしつつ、足をすすめているとビリッとした気配がして俺は立ち止まった。


「おっと、ボスのお出ましだ。リスナーのみんな音量注意です!」


 最深部、少し開けた空間に荒い息が響く。見上げるほど大きな豚「キングブー」は固そうな皮膚、牙が反り返ってぬらぬらと光っている。


——ぎゃおぉぉおぉ!


 とんでもない大きな咆哮にぎょっとする一同。


「英介くん、がんばれ〜!」


 きゃぴきゃぴと応援する音奏の声に反応して、キングブーが前足で地面を擦る。


「おっと〜、わあっ、揺れる!」


 地ならしによろけた音奏をシバが咥えて背中にぽいと乗せる。その間に俺は弓を構えていた。

 キングブーの弱点は脳天。ただ、その周りの皮膚が非常に硬いため普通の冒険者は足を攻撃してひっくり返してから脳天を攻撃する。


 しかし、俺の場合は関係ない。


「こっちだ!」


 大声を出してやつの向きを変える。キングブーは俺の方を向いて前足をかき鳴らし、突進の態勢をとった。

 弓を弾き絞り、力一杯矢を放つ。


——ぎょぉぉぉぉ


 とキングブーの断末魔が響き、みんな耳を塞ぐ。コメントの方も「耳壊れた」で埋め尽くされ、俺も音奏も顔を見合わせて笑った。

 キングブーが完全に絶命したのを確認して、俺はカメラを手に取る。


「それではみなさん、一旦捌いたらまた動画としてキャンプシーンを投稿しますのでそっちもよろしくです! それでは!」


<さすがにワンパン>

<英介にとってSSS級はもう雑魚レベルなんだよなぁ>

<もはやこれは定期>

<いいね〜、苦労せずサクッと倒してくれるとスッキリするわ>

<本体映せ>

<料理動画はよ、安い豚肉で代用するんや>

<めろちゃんのファンみんな英介に吸い取られてるなw>


 投げ銭が飛び交うこの感じも、コメントのあったかさもなんだか少し懐かしい。時間が空いても好きでいてくれているリスナーさんたちに心から感謝をしつつ配信をオフにした。


「音奏〜、怪我ないか」


「ないよ、シバちゃんありがと」


「ん、英介。早く捌け」


「はいはい」


 

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