第70話 俺、仲直りする
「ただいま」
タワーマンションは駐車場から家までは死ぬほど長い。あの築50年のアパートが恋しい。疲れて帰ってきて、すぐにシャワーインできないのほんとつらい。
「おかえり!」
ドアをあけて飛び込んできた音奏を抱き止める。
「かっこよかったよ〜最強だねっ」
「ありがとう」
俺はセクシーDVDのお気に入りのあの子が映像に写ってたんじゃないかとヒヤヒヤしていたが音奏をみるに大丈夫そうだ。
「怪我……はしてなさそうだね」
「してないよ」
「さすがぁ〜! しょーがない。今日は何食べたい? なんでもおじさんがつくってやろう! わっはっはっ」
「おいおい、そこは可愛い裸エプロンの奥さんとかそっち方が夢あるぞ?」
「あ〜! そっちだったか……」
音奏はどうしておじさんになりきったんだろう。マジで謎だ。
「シバは?」
「お部屋にいるよ」
「ちょっと話してくるよ」
「うん。わかった」
可愛い彼女と少し長いキスをしてから、俺はシバの部屋をノックした。返事はないので強引に引き戸を開ける。
部屋の中にはシバのお気に入りのおもちゃが散乱し、彼はふわふわベッドの上で丸くなっていた。
呼吸が一定ではない。つまりはふて寝だ。
「——シバ」
ぶんっとしっぽが揺れる。
お前は猫か。
「悪かったよ、ただいま」
「英介……オレ、ごめん」
シバはくるっと振り返ると、ポロポロと涙をこぼしていた。シバが謝ることないよと言っても彼はブンブンと首を振った。
「俺が悪いんだ。ごめんな、意地はって心配させてさ」
「なぁ、白狼の進化系ってどんな奴だった? どんな力だった?」
俺は相棒に悟られないように自然を装いつつ
「あ〜、いつも通り瞬殺したからさ」
と笑って見せた。別に、シバが知る必要はないしまぁこの肉球じゃスマホは見れないからな。俺や音奏が言わなきゃ彼が白狼の進化系モンスターの能力を知ることはないだろう。
それに親父を殺した個体はシバが食い殺しちゃったから真相はわからずじまいってことも事実なんだし。
「なぁ、英介」
シバはシュンと耳をさげたままだった。
「オレ……なんだろ?」
「え?」
「オレさ……ずっと認めたくなくて信じたくなくて心の奥にしまって隠してた。親父が簡単にやられるようなヤツじゃないってなのに死んだのは……オレのせいなんじゃないかって……」
シバは悔しそうに歯を食いしばって横を向くと、俺にそっと寄り添った。ふわふわの背中を撫でながら、彼に真実を伝えるべきか言い迷っていた。
「なぁシバ」
「英介のその顔……みりゃわかるよ。オレ……なんだろ」
ぐっと涙を堪える。が絶対に肯定はしない。だって、確定はしてないんだ。そう、可能性が高いってだけ……だ。
「多分……そうかもしれない。白狼の進化系モンスターの能力は……」
俺が内容を話すとシバは何度か遠吠えをしてそれから子供のように声を上げて泣いた。俺も、そんな姿を見ていたら、ダムが決壊したかのように涙が溢れ出し、喉がひくひくと震えた。
「ごめん、オレ……英介と母ちゃんから大事な親父を奪った。オレ、ごめん……ずっと、ずっと心のどこかでそうじゃないかなって感じてたのに……認めたくなくてオマエたちに嫌われるの怖くて……英介にあんな酷いこといって……ごめんな……ごめんな」
「もういいんだ……仕方なかったんだ」
「親父の仇は白狼のヤツじゃなくてオレだったんだ。英介、オレ……オレ……」
泣きながらシバの涙を拭い、ぎゅうぎゅうと抱き締める。
「英介、ごめん……ごめん」
「いいんだ、シバ。完全にそうだと決まったわけじゃない。お前はちゃんと白狼を食い殺してた……んだ」
「オレ、母ちゃんに会い”だい”」
「あぁ、今度会いに行こう。すぐにでも行こう」
「オレ、母ちゃんに許してもらえなくても……謝りたい、うぅっ、オレアイツを殺しちまった」
「かもしれない……だ。シバ、お前と親父が退治した白狼がその能力を持っていたかは今になっちゃわからないんだ。だから……だからもう泣くな」
「英介……オレ、捨てる?」
「捨てたりしない。ずっと一緒だ。俺も母ちゃんも絶対にシバを嫌いになったりしない。親父もだ。だから……もう前に進もう」
俺とシバはしばらく泣いて、それからリビングに戻った。
***
「仲直りしたの?」
目を腫らした俺を見て音奏は随分と心配をしつつ、俺がシバを抱っこしているので安心しているようだった。
「まぁな」
「よかった。じゃあ、次はみんなでなかよくダンジョンキャンプに行けるね」
「あぁ、音奏……シバ。この前は意地はって心配かけてごめんな」
「ほんとだよ〜、今度からは許さないからね?」
「あぁ、わかってる」
シバを床に下ろし、そっと音奏を抱き締める。俺もまだまだ家族を持つには早いかな、こんな立ち回りをしてたら……。
「あぁ、いい感じのところわるいんだけどサ」
シバがやっといつもの調子に戻って俺はほっとしつつも、首をかしげる。俺の腕の中で音奏も同じリアクションをとった。
「オマエら、ちょっと臭い」
「えぇっ、シバちゃんひどいっ」
と心当たりのない音奏はショックを受けていた。
「——あ……、俺ダンジョンの中で唐辛子エキスぶちまけてきたんだった」
「うげぇ! 英介のばかっ! 音奏もくっついたから臭いっ! 風呂入ってこーい! 今すぐだ! それまでもふもふ禁止〜!!」
やっと、いつもの日常が……いつもよりちゃんと前を向けた日常になったのだ。
"***あとがき***
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次章は、ほっこり日常をお届け!
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