第67話 俺、準備は入念に
俺がやってきたのは風間装備店だ。店主の風間さんとやり手の奥さん・美彩さんが営む個人ショップ……だったのだが。
「なんかでかくなりました?」
「あぁ、君たちのおかげさ。岡本英介と伊波音奏のスポンサーになってからこう……商品が飛ぶように売れてね」
風間さんは「忙しくて弟子をとったよ」と若い男の子を紹介してくれた。加工屋の専門学校に通っていたらしく、まっすぐな印象の子だ。
「美彩さんは?」
「あ〜、今は撮影に出てるよ」
「撮影?」
「そう、えっとなんだっけ? インフル……インフル」
「インフルエンサー?」
「そうそう、インフルエンサーの人たちに広告案件をお願いする〜とかなんとか言って犬たち連れて撮影に行ったよ。まぁ、あいつは元々あぁいう目立つのが好きだかさ。それにここのところお得意さんだった冒険者さんが無くなったとかで素材が海外からしか取れなくって……まぁ美彩にはすごく助けられてるよ」
そっか。
あの事件以降、SSS級の冒険者たちはL級への申請を却下されていて事実上L級ダンジョンの素材は日本に新しく出回ることはなくなったんだったな。
まぁ、海外でも申請が緩い場所……東南アジアなんかに行くとL級レベルのダンジョンに入ることはできる。
が……保障はないから相当な好きものじゃないかぎりそんな方法でダンジョンに入ったりはしない。
「で、今日は何をお望みで?」
「あぁ、矢を見せてほしいんだ」
「ちょっと値上がりしたけど、いいのが揃ってるよ」
「素材は?」
「そりゃ……まぁいつかは恩返しできるんじゃないかと思って岡本さん用にいい素材は残しておいたんだよ」
風間さんは照れ隠しに笑って見せると、レジ下のショーケースのさらに下から黒い箱を取り出して、俺の前でパカっと開いて見せてくれた。
「す、すげぇ……」
「少し資金余裕が出たからさ海外からより良い素材を取り寄せたりしちゃったりして……? 次も配信するんでしょう? ぜひ使ってくださいよ」
「え、さっき少し高いって」
「何を言ってるんだい。一般人にはってこと。うちは君のスポンサーだ。一番良い商品を提供させてくれよ。それが俺の仕事なんだから」
「あ、あ、ありがとうございます!」
俺はまさかのプレゼントにちょっとびっくりしたがとても嬉しかった。多分、というかかなり高価な魔法石や素材を使った矢のセットを提供する価値があると判断してもらったわけだ。
今まで「変わりはいる」「価値なんかない」と罵られてきた俺にとってはすごく新鮮で……自分自身の価値を感じられたのだ。
「そうだ。今度本格的に通販始めるんだってさ。よければ使ってよ。忙しいインフルエンサー様にはもってこいだろう?」
「ちょ、やめてくださいよ。俺はこうして職人気質の風間さんと素材についてだべるのが好きなんですから」
「ははは、いいねぇ〜。わかるよ」
「そうだ、薬品系を見て行っても?」
「あぁ。ちょっと場所が変わってね。奥のクーラーボックスにあるよ」
「ありがとうございます」
「ちなみになにを?」
「あ〜、唐辛子エキス……とか?」
「あぁ、犬系の魔物に効くやつね。粉末と液状があるけどどっちがいいかな?」
「どっちもいただけますか?」
「あいよ、持ってきな」
「ありがとうございます」
「そんくらいかな? 傷薬や包帯は?」
「あ、手持ちがあります。えっと結構前に買ったやつですけど……」
「ええいっ、もってけ」
「すみません……」
風間さんはにこっと笑って俺に大量の包帯を持たせ、バシバシと背中を叩いてくる。
「ほら、いってらっしゃい。うちの装備品でバッチリ活躍して宣伝頼んだぞ」
「はい、いってきます!」
風間装備店を出て、俺は車へと戻った。シバも音奏もいない車内はちょっと静かで寂しい……。けど、俺は1人で向き合うと決めたんだ。
「よし、やるか」
俺はぐっとアクセルを踏んで、白狼の住まうダンジョンへと出発した。
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