第12話 俺、再び配信する1
「おはよぉ〜」
音奏は俺が寝るはずだったテントの中からひょっこりを顔を出した。
「おはようさん」
「すんごいね、あのマット? ふかふかだしひっさびさにぐっすりだったかも……ありがと! うわ〜、めっちゃいい匂いするんですけど!」
まぁ、さすがに一緒のテントに入るのは気が引けたので俺は外でシバに巨大化してもらってもふもふの中で眠ったのだ。
「ま、狩りの前の腹ごしらえだな」
ホットサンドメーカーを直火にかけながら俺はシチュー用に持ってきたホワイトソースを温めていた。
ホワイトソースのかおりと、ホットサンドメーカーからバターとハム、チーズの焦げるいい香りがして音奏は「ぐぅ」と派手に腹を鳴らした。
「ちょ、何作ってんの?」
「最高の朝飯」
「ね〜、岡本くんってば最強かよ〜。じゃあ私はコーヒー担当ね」
「サンキュ」
音奏はマグカップやらインスタントコーヒーやらを準備して、楽しそうに鼻歌を歌っていた。なんというかまぁ寝起きからご機嫌なことで。
「よしっと、これさぁもっと映えそうな小道具もってきたらいいかもね? ほらほら、ダンジョンの攻略配信はナマでやってお料理系は動画投稿的な? めっちゃよくなーい?」
きゃっきゃっと楽しそうに話す彼女を見ながら俺は「いいかも」と心が躍る。動画の編集は時間をかければかけるほど良いものになりそうだし、1人で静かに作業したい俺にはピッタリかも。
「さ、できたぞ」
ホットサンドメーカーをパカっと開くと彼女が「うわぁぁぁぁ」と感嘆の声をあげる。
ホットサンドメーカー(ワッフル型付き)に冷凍のクロワッサン生地とハムとチーズを入れてジューっと焼いていたのだ。
カリカリに焼き上がったそれをトングで取り出して皿に盛り付けると、少し煮詰めてドロッとしたホワイトソースをかける。
「クロックムッシュ風クロッフルってとこかな。はい、どーぞ」
「わぁぁぁぁぁ!! 岡本くん天才かよ! めちゃうまそう! 美味しそう……いただきまぁす」
ホットサンドメーカーでぎゅっと押し付けられたおかげでパリパリになったクロワッサンに香ばしく焦げたベーコンとチーズ。そのしょっぱさをホワイトソースがうまいこと和らげて……いくらでも食べられる美味しさだ。
「うんま、熱いから気をつけろよ」
「うんまぁぁ……岡本くん。おかわり焼いて」
「太るぞ」
「いいのいいの! あとでいっぱい運動するんだからっ!」
「はいはい」
俺はもう2つクロッフルを仕込みながらちょっとニマニマする。
——ソロキャンもいいけど、たまにはこういうのもいいかもな。なんて。
***
腹ごしらえの後、俺たちは配信の準備に取り掛かっていた。音奏が持ってきた空中浮遊型の透明カメラに俺が感動したり、彼女が一生懸命SNSで告知をしたり……。
「じゃ、はじめるよ」
「どうも、こんにちは。岡本英介です」
「ちょっと〜、カタイカタイ! めろちゃんだよ〜! みんな、元気? 今日は、岡本くんと一緒に狼王のダンジョンに来てるよ!
イェーイ★
とノリノリでポーズをとる音奏の後ろで俺はぺこりと頭を下げた。
「おっ、同接1000人だ。みんな
俺もスマホを覗き込む。
<知ってる>
<幻の食材>
<ってかなんで雑魚モンおらんの?>
<配信はじめが最下層で草>
「そうそう、岡本くんが最強すぎてモンスターは基本寄ってこないんだって! やばくない?」
と音奏が自慢した時だった。
俺らの背後から大きな唸り声と殺気がして、俺は咄嗟に彼女を抱えて横っ飛びした。
俺らがいた場所に大きな穴が開くほどの衝撃が走り、砂煙の中には筋骨隆々の狼王の姿があった。
「話してたらボス登場! ヤルよ!」
音奏はステッキを構えて、埋め込まれた火の魔法石からブンブンと炎の球を放つ。しかし、二足歩行で狼の頭をした<人狼タイプ>の狼王はひらりひらりとそれを避ける。
「人狼タイプ、しかも傷持ちか」
狼王にはさまざまなタイプがある。
ケルベロスタイプ、白狼タイプ、そして一番強いのが知能と機動力の高いこの<人狼タイプ>だ。
「あんまり騒がれるとウサギが逃げるんだよなぁ、シバ」
シバはぶおおんと大きく変化と音奏を背に乗せて「了解」と渋い声でカッコつけた。
この野郎、俺より配信慣れしやがって……。
当初の予定では睡眠矢で眠らせるつもりだったが……もしかして戦った方が視聴者は喜ぶ……?
「あんまり騒いでくれるなよ」
狼王は俺の弓を見て超高速移動で走り回り始めた。流石に傷持ちは賢い。
弓矢は遠距離の武器。ターゲットが絞られなければ使い物にならないことを理解しているのだ。
——まぁでも、無駄なんだけど
俺は一本の矢を放つ。
その矢は高速移動をしてこちらを伺っていた狼王の眉間をぶち抜き、奥の岩に突き刺さった。
「さ、
俺が振り返って音奏に話しかけると、彼女はあんぐりと口をあけてぼうっと俺を眺めていた。
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