第13話 俺、再び配信する2
「やっば……一撃?」
ぽかんとする音奏をおいて、俺は倒した狼王の死骸を跨ぐ。人狼タイプなんか食えないし、爪と牙だけ貰っておくか。加工屋に渡して矢を作ってもらおう。
「音奏、いくぞ」
「う、うん。ってかさ、さっきありがと」
彼女はちょっと恥ずかしそうにそういうと透明な飛行型カメラに向かって実況を始める。
「みんなみた? まさかのSSS級ダンジョンで人狼タイプの傷持ちモンスターを一撃! 岡本くんのヤバさ伝わった? 岡本くん、視聴者からコメントいっぱいだよ」
と言われて俺はスマホを取り出した。
同時接続人数 1500人
<ってかSSS級のダンジョンでキャンプ設営してたん?>
<狼王傷持ちを弓矢で一撃はしんどい>
<ってか、弓って近距離不利武器だよな?>
<筋肉見せて>
<かっこいい! 彼女いますか?!>
「ははは……」
「ちょっと〜、みんな私のことも褒めてよ〜!」
<めろちゃん流石にSSS級は足手まといでしょ>
<2人は付き合ってるんですか?>
<めろちゃん弱可愛い>
<飯テロ期待してます!>
「ひどいったらひどいよ〜。めろちゃん弱くないし!」
結構動画の視聴者ってのは自由なんだな。うん、でも楽しんでもらえてるならそれでいっか。
「じゃあ、
狼王の巣の周辺に小さな洞窟の入り口ある。這って入り込み、しばらく匍匐前進で進むと大きな空間に出る。
この辺に……いるはずだが……。
「おっと」
俺が飛び退くと数匹のツノウサギがこちらを威嚇し、額の一角を震わせている。
「うっわ……ウサギちゃんだと思ったけど顔怖いね、でかいし」
彼女のリアクションの通り、可愛いウサギちゃんではない。まるで肉食獣のように牙を剥き出しにし、その目は真っ赤で吊り上がっている。大きさは大型犬と同じくらい。
まともにあの一撃を喰らったら普通の人間なら死ぬ。
「まぁ、雑魚は無視で」
俺がぐっと威嚇してきているウサギを睨むと、奴らは威嚇をやめて逃げ出した。俺の狙いはただ一つ……
じっと洞穴の中を眺める。
そしてゆっくり、ゆっくり足をすすめていく。
「ねえ、どんな感じなの?」
空気を読んだのか音奏も囁き声で話す。
「金色の光が見えたら教えてくれ。えっと視聴者のみなさんもコメントで教えてください」
俺のアドリブに彼女は大喜びで親指を立てた。どうやらコメントがガンガン流れているらしい。
「あっ、あっち。コメントで岩の奥で見えたって。ラグを考えると……」
「おっけ、他には?」
「池の周り、それから右端の壁」
「なるほど」
「でも、ラグがあるし……」
「いや、見えた……!」
俺は弓を構え、引き絞った。さっきとは違って瞬き一つせず、じっと的を絞る。岩の奥、池の周り、右端。
シンと洞穴の中が静かになる。俺は息を止める。
一瞬だけ、奥の岩陰から見えた金色の光のいく先に俺は矢を放った。
——ギャウッ
金色の光は矢を受けると黄金に輝くツノを持ったウサギに姿を変える。
「よっしゃ!」
「やばっ! みんなみてた? こっちも一撃!」
「いや〜、まさか一回で急所に当てられるとは」
「え? どういうこと?」
「ほら、ちょうど心臓のところに刺さってるだろ? こうすると魔法石になるツノも傷つかないし、肉も食える部分が残りやすいんだよ。ゆっくり狙ってよかった。みなさんがこいつの動きの法則を教えてくれたので、うまくいきました!」
<は? こいつま?>
<狩れるだけでもやばいのに急所狙って一撃?>
<これは生きてるだけで国宝>
<全国の料理人からDMくるに五百円かけるわ>
<岡本英介えっぐ>
<かっこいい!!! 付き合ってください>
<これはさすがのメロちゃんもイチコロ>
同時接続人数 3000人
「じゃあ、
と俺が締めくくりに入ろうとすると音奏が割って入る。
「私が食べてるかわいい〜映像もあるから絶対見てね! 今日は最高の配信でしたイェーイ」
なんだか俺も楽しくなって彼女と一緒にピースをする。そのまま配信を終えて俺は
「配信ってこんなでいいのか? 俺、いつもみたいにあっさり倒しちゃったけどさ。本当はこう努力! 勝利! みたいな苦労する姿の方がみんな食いつくんじゃないか?」
俺の質問に彼女は「うーん」と首を傾げる。
「でも、岡本くんの配信はさスカッとして気持ちがいいし……それに努力とか苦労ってある程度人気がある人がやるから面白いんだよね〜。だから、もう少しファンがついたらとか?」
なんだか音奏の言っていることが理にかなっているような気がして悔しいな。
でも、その通りだ。誰も知らないおっさんが苦労するところなんかみたいないだろうしさ。
「じゃあ、戻りますか」
「お腹減った〜」
「音奏は何もしてないだろ」
「え〜ん!」
「わかったらシバに乗らずに歩いてかえるぞ〜」
「はーい」
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