第14話 俺、バズる
「じゃあ、グロくない程度に捌いてっと。音奏、カメラ任せてもいいか?」
「いいよ〜! 任せて! 編集は岡本くんがやるの?」
「うん、家に帰ったらゆっくり動画編集しようかなと」
「へぇ〜、お仕事やめたしゆっくりするんだぁ〜、いいな。行っていい?」
「音奏がいたらゆっくりできんだろ、やめてくれ」
「え〜、静かにしてるからいいでしょ〜? ねぇねぇ、いいでしょ〜?」
コイツ……。
「さ、じゃあシチューとビール煮込み作るか。シバ、使わないところ食っていいぞ」
俺は
「英介、骨も食っていい?」
「ん、いいぞ。牙と爪、ツノがあれば素材は十分だしな」
シバは嬉しそうに唸ると食い始める。
「2種も作るの?」
「そ。ホワイトシチューとビール煮込みだな。どっちも最高にうまいんだよなぁ。
音奏が「うわ〜絶対うまいじゃん」と地団駄を踏む。子供か。
「じゃ、いい感じにカメラよろしく」
「はいよ〜、なんかキャンプ料理って映えるよね〜。はい、じゃあいきますよ〜」
うさぎ肉を小さく切り分けて調理していく。事前に持ってきていた野菜と一緒に炒めて、それから小さな鍋2つに分ける。一方にはビールを、一方にはチキンブイヨンを入れてコトコト煮込む。
ローリエやら香草で臭みを消し、ごろごろの野菜と肉の甘い香りが蒸気と共に広がっていく。
「明日の予定は?」
「へっ? 岡本くんからそんなこと聞いてくれるなんて珍しーじゃん。そ、そりゃ? 岡本くんに頼まれたら開けてあげないこともないけど?」
「いや、そうじゃなくて」
なぜだかデレデレとする彼女に俺はニンニクを見せた。まんまると太った国産のちょっといいニンニクだ。賠償金が入ったから食材も奮発したんだ。
「ニンニク?」
「そう、シチューにはガーリックバケットが最高だからさ。けど、一応? 音奏も女の子だし聞いておこうかと」
「一応って何よ!」
「で、明日の予定は?」
「ないよ、強いて言えば岡本くんの家にいこっかなと」
「じゃあ、遠慮なく」
俺はニンニクの皮を2個分剥くとスキレットにオリーブオイルをたっぷり入れてニンニクと一緒に火にかける。ウサギシチューを弱火でコトコトしている間にバケットを焼きつつニンニクのオイル揚げを並行して料理していく。
ニンニクがオリーブオイルを吸ってこんがり狐色になったら塩胡椒をした上でこちらもカリッときつねいろになったバケットに一粒。ぎゅーっと押し付けるようにニンニクを塗ってしまうのだ。
「うわ〜、背徳感……!」
音奏が物撮りしながらよだれを垂らしそうな顔でリアクションしている。料理動画は無音にするかな。あぁ、そうしよう。
「音奏、シチューとビール煮込みもできたからふた開けるとこと物撮りしよう」
俺が蓋を開け、彼女はズームやら角度をかえてやらして何度か撮影をした。
「じゃあ、食べよっか。あ、そうだ岡本くん。写真とってツエッターにあげといたら? 動画投稿の後にSNSにあげてもいいと思うしさ。ほら、エンスタとかもやるんでしょ?」
「そっか、スマホスマホ」
俺はポケットから自分のスマホを取り出してタップする。しかし、画面は真っ黒のまま反応しない。
「あれ?」
「どしたの?」
「いや、電源がつかねぇ」
「充電切れてるとか?」
「充電きれるほど触ってないけどな……音奏悪いけど撮ってくれるか?」
「いいよ、でもなんで充電……あっ、まさかっ」
と何かを思いついたのか料理を取らずにスマホに夢中になると、彼女の表情がぱっと幸せそうな笑顔になった。
「岡本くん!」
「な、なんだよ?」
「なんでスマホの電源切れたかわかったよ」
「えぇ……?」
「通知、切ってなかったでしょ?」
「通知? なんの?」
「ツエッターの通知」
「あぁ、そう言えば」
音奏はニンマリ笑うと俺にスマホを寄越してきた。画面にはツエッターが映し出されている。
<日本のトレンド>
1位 岡本英介
2位 ワンパン
3位 狼王 人狼型 弓矢
4位 何者
5位 柴犬
6位 めろでぃー
7位 SSS級 キャンプ
8位 ヤバい
「バズってるから、通知止まらなくてスマホの電源切れちゃったんだよ! ほら、岡本くんのツエッターフォロワーもう5万人だよ!」
「まじかよ……」
「まじまじ! だってさ、よく考えてごらんよ。SSS級のダンジョンでのんびりキャンプしつつ、軍隊でもギリなレベルの狼王をワンパンしてその
彼女の語彙力が完全に消え失せているので俺は「そうだな」と言いつつ、シチューを器によそい、ガーリックバケットをナイフで細長いスティック上に切った。
「ま、動画も撮れたし食いますか」
「も〜、岡本くんってば冷静すぎるよ〜」
「食わないの?」
「食べる! 食べますってば〜! いただきま〜す!」
スマホをバッテリーに繋いで俺はウサギ肉のシチューに向き合った。これで働かずとも今月から配信者として収益化できるんじゃあるまいか。
目の前でうまそうに料理を食ってるギャルのおかげだ。
「ありがとな」
「ふえっ?」
「なんでもない、おかわりいるか?」
「いる〜! あと岡本くん、乾杯しよ。乾杯。ビールまだあったっしょ」
プシュッとダンジョン内にいい音が響いた。
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