第117話 俺、後輩ができる
公務員になって数日。
俺の日常はいまだに事務作業のOJTだった。というのも、公務員のこなす事務作業というのは膨大なのだ。何をやるにしても申請書やら承諾書やらの書類が必要になるし、民間企業と違ってIT化もあまり進んでいないのもある。
その上、俺は将来この部の部長候補だったりするらしいのでそう言った書類のあれこれはしっかりと教え込まれているようだった。
「そうだ、岡本さん。今日から新しい人が来るそうですよ。相田部長から聞きました?」
成瀬さんが俺のデスクに履歴書を置く。
「いや、聞いてないけど」
「はぁ、相田部長ったら。じゃあ私が伝えますね。今日から新しい人がこのDLSの部署にきます。えっと、名前は
年齢は25歳。普通の履歴書とは違って冒険者証も添付されている。戦士兼タンクの万能型。複数のパーティーに所属していてコミュニケーション能力も良好。
「しばらくはSSS級をメインに動いてももらう感じか。成瀬さん、今うちが抱えているSS以上の冒険者って……」
「そうですね、我が協会と契約を結んでいるSS級の冒険者は10人ほど。彼らとパーティーを組んで働いてもらう形が良いかもしれませんね」
日本冒険者協会には提携を組んでいる冒険者が何人かいる。無論、傭兵的な感じで1ダンジョンにつきいくらと言うふうに謝礼金が出る。ちなみに、俺の親父も一時期協力していたようだった。
「いやー、ごめんごめん。はい、おはよう」
そんなことを話していたら、相田さんが新人くんを連れて部署へと入ってきた。新人くんは爽やかな体育会系といった雰囲気でスーツがよく似合っている。
「はじめまして! 今日からお世話になります。幸田陸です。前職は居酒屋で店長をしておりました。まだまだ未熟者ではございますがよろしくお願いします!」
「はい、あっちが時期部長候補の岡本英介くん、そしてバディの成瀬ひとみくんだ。デスクはここだね」
俺たちはあいさつを済ませて、成瀬さんがせっせとマニュアルのファイルを彼に渡す。俺は次にいくダンジョンを吟味しつつ、必要な書類を準備した。
この職場には俺を侮辱したり馬鹿にする奴はいない、むしろ働くことは人生の中の一部でしかなく、ベクトルが低い。会社に人生を捧げることが前の会社では当たり前だったのでとてつもないギャップを感じている。
「岡本さん、成瀬さん。よろしくおねがしいます!」
「俺もついこの前に入ったばかりだけれど、よろしく。ちなみに幸田くんはOJT後リモート希望?」
「あ〜、半分くらいはリモートできたらいいなと思いつつ昇級していきたいのでガンガンダンジョン回っていこうかと思ってます」
「そうか、わかった。じゃあ俺と同じくしばらくは事務作業覚えてから実践だな……」
「はい! よろしくお願いします!」
好青年という印象だ。どうやら俺にも後輩ができたらしい。前の会社では、誰かに教えることは許されなかったから少し楽しみだ。俺は、いい上司になれるだろうか?
いや違う、なるんだ。
「そうだ、例のお花見の参加人数の申請は今日までですよ。岡本さんは、彼女さんと彼女さんのマネ、マネージャーさん?」
「あぁ、はい。あと犬も」
犬の話をすると成瀬さんの鼻が膨らんだ。相当の犬好きらしい。
「幸田さんもいかがですか? 今週末のお花見。よければ、ですけど」
「あ、ぜひ。うちの妻と子供もいいですか?」
幸田くんは成瀬さんから申請書を受け取るとサラサラと名前を書いた。若いのに立派だなぁ。
「よかった。この部署の歓迎会も花見でやりますか。ということで、業務開始しようか」
なんとなく音頭をとって、俺は書類作成に取り掛かった。
俺、上司になったんだ。
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