第18話 俺、最強ドラゴン相手に無双する


「で、やってきたのは最強と名高いドラゴン、エンペラー・ドラゴン(はがねタイプ)がいるダンジョンってわけです」


 俺と音奏は、埼玉県秩父市のとあるダンジョンでキャンプの準備をしていた。もちろん、配信しながらだ。


「今日はエンペラー・ドラゴン(はがねタイプ)を倒して、ドラゴンの種火を手に入れて最強ステーキを料理しようと思います」



<おおお! ドラゴン肉のステーキ>

<しかも種火とるのはやばい>

<はがねってエンペラー・ドラゴン種の中でも最強だよな?>

<確実に最強>

<そしてドラゴン肉のステーキとか最高級だぞ>

<くっそ……タダメシできるめろちゃん裏山>

<本体見せろ>

<本体どこだ>


「えっと、ドラゴンの種火ってのはドラゴンが炎を吐き出す瞬間に、火炎袋に一撃くわえることで手に入る貴重なもので……」


 俺は<本体>ことシバを抱き上げつつ話してみるがどうしても説明口調になってしまう。


「ちょちょ、岡本くん説明っぽすぎ〜! とにかく〜、やばいやつをとります!」


 俺がごにょったところに音奏が合いの手を入れてくれる。助かった。


「じゃあ、行ってくるわ」


「へ?」


「あいつ範囲攻撃やばいから、音奏とシバはここでまっててくれ」


「え、えっ〜!?」


<めろちゃん戦力外通告キターーー!>

<めろちゃん弱かわいい>

<めろちゃんは副音声でドゾ>

<岡本氏わろたw 最高かよ>

<かわいい女に厳しい男ですこ>

<めろちゃんは負けヒロイン>

<これだからメロディーのファンはやめられねぇな!>

<岡本くん、がんばえ〜>


——同時接続者数 1万人


 エンペラー・ドラゴン種はとにかくデカくて強い。西洋型のドラゴンで小さな羽と大きな体、どっしりした下半身にでかい顔。動画映えすること間違いなし! である。

 ただ、奴の炎攻撃は広範囲なのと居住環境的にS級の音奏は数秒と持たないだろう。そこで、シバをモンスター避けに残して俺1人で突撃することにしたのだ。


「じゃあ、行ってきます」


「怪我しないでね?」


<いちゃつくな、もっとやれ>

<いいぞ、ギャルデレ>

<めろちゃん かわいい>

<めろちゃん NTRされてほしい>


 俺は透明の飛行型撮影機を従えてエンペラー・ドラゴン(はがねタイプ)がいる最下層へと向かった。


***


 ぐつぐつと煮えたぎるマグマ。灼熱の最下層には、金銀銅それぞれの鱗蟲がうようよとしていて、なんとも非現実的な光景だ。

 エンペラー・ドラゴン(はがねタイプ)はそのど真ん中で丸くなって眠っている。

 じっとりと光る鋼色のうろこに覆われた体が俺の気配を察知してがしゃりと起き上がった。


 3階建てのマンションくらいの大きさのヤツがぐぉぉぉぉと吠えると臭くて熱い息を吐き出した。

 むわっとフロアの熱が上がり、俺は不快感を覚える。


「さ、さっさと炎を吐けよ」


 右、左。奴の爪攻撃を交わし、ぐるりと回ってくる尻尾の攻撃をバク転で避ける。ガチンと目の前でドラゴンの牙がなり、俺はさらに飛び退いて距離を取った。


「なかなか、火を吹くモーションにならないな」


 今度は距離をとって、奴と睨み合う。

 やつは小さな翼をばたつかれせてこちらに寄ってくると再び爪攻撃を繰り返す。多分、俺が舐めプをしていることがわかったんだろう。相当イラついているようだ。


「うーん、長いよなぁ」


 俺はさらに距離をとって奴の尻尾に一撃、それから片腕を破壊する。


——ぎゃぁぁぁぁ!


 エンペラー・ドラゴン(はがねタイプ)は鋼色だった鱗を真っ赤なマグマ色に変えて怒り出した。ふしゅるふしゅると鼻息を荒くし、瞳は白く濁っている。


「くるぞ……」


 やつは大きく口を開け、ぐぐぐぐぐと不気味な音を立て始める。きた……もう少し、もう少しだ。

 奴の口の中がピカリと光った瞬間、俺は矢を放った。しかも、満月黄金兎フルムーンラビットのツノで作った矢だ。光よりも早く飛び、鋼の鱗も強靭な筋肉も突き破って奴の首元にある火炎袋に突き刺さった。


「よっしゃ!」


 そのまま俺は次の一矢を急所の口の中に打ち込み、そのままの勢いで駆け寄ると持っていたナイフで首をスパッと落とした。

 こうすることで奴の火炎袋が燃えてしまう前に取り出せるのだ。


「よーし、ミッション達成!」


 アッチアチの火炎袋から取り出した「ドラゴンの火種」をランタンの中に入れて、俺はカメラに向かって笑顔になる。


<最強すぐる>

<はがねタイプ相手に舐めプ無双最高すぎた>

<一撃からの首チョンパまでの流れスローにするとやばいぞ>

<えっぐ>

<最高でした! 大好きです!>


「じゃ、料理動画はまたチャンネルに上げます。また見にきてください」


 俺は配信を切るとドラゴンの一番うまいモモの部分を3キロほど切り取って麻袋に詰めた。さ、今日はこれと種火でステーキだ。


「さてと、腹も減ったし帰りますか」




 最下層からキャンプをしている中層まで歩いている時だった。



「キャンッ」


「きゃ〜っ!」


 シバの悲痛な声と音奏の悲鳴がダンジョン内に響いた。


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