第4章 俺、収益化する

第15話 俺、女からモテる


 月曜日。

 それは多くの大人にとって一番の嫌な日である。


——が、しかし。


——俺、岡本英介はもう起きる必要がない!!



「英介、メシ」


 なんて甘い世界ではない。

 俺はシバの声に起こされると、彼の朝飯を作るため、午前7時にベッドを出た。


「シバは朝が早いなぁ」


「ニンゲンのお前たちに合わせてたら早くなった」


「はいはい、いつもの牛肉と……」


「今日はカリカリがいい」


「了解」


 ウェットフードではなくドライフードをカラカラと器に入れる。数百年生きているこの犬神様はドッグフードが、いたくお気に入りらしい。


「お待たせしましたよ」


 早起きはしたものの気分は爽やかだ。働きにいかなくていいんだから。一年分の給料にプラスして会社からの賠償金、武藤と女2人からそれぞれ賠償金が入った。少なからず数年はこのボロのアパートで好きなことをしていられるんだ。


 その間に、配信者として食っていけるだけの力を身につければ……


「っ……?!」


 再びベッドに寝転がってスマホタイムをしていた俺の目に飛び込んできたのは非常にというかモロ出しセクシーな女の写真だった。



====


岡本英介さん


こんにちは! ファンです。

オカズにしてくださいっ!


みなみ より


====


 狼王のダンジョンでの配信の後、俺は再びトレンド1位になった。例の如くツエッターのDMはこんなものがごまんと送られてくるようになっている。

 なんでも俺のファンで俺に抱いてほしいとか見てほしいとか……。俺をベタ褒めする文章と共に送られてくるセクシーな写真。


「有名人ってのはみんなこんなモテんのか」


 朝の男子には刺激的すぎる写真だ。ただでさえ会社ではキモがられていた俺、突然モテてしまうと反応に困る。もちろん、コミュニケーションに自信はないのでDMに返事をすることはないが。拝むくらいは許されるだろう。多分。




 数時間後




「ふぅ……、とりあえず飯でも食うか」


 あらかたDMを読み終わった後、冷蔵庫開けてみる。

 昨日帰ってきて、残ったウサギシチューは冷凍しちゃったしな……、チーズと冷や飯。揚げ玉か……。


「最近、ほとんど毎日あの音奏が食いにくるから食材がすーぐなくなるな」


 俺は湯を沸かし、どんぶりに冷や飯とチーズを入れてレンジでチンする。


「この辺にあった……よな!」


 調味料ストックの一番下に残っていた最後の一袋を取り出す。永山園のお茶漬けのり(さけ)だ。

 この(さけ)ってのが重要である。

 チーズがとろけた白飯の上にお茶漬けのりと揚げ玉をかけ、お湯をドバッと注ぐ。テキトーな皿で蓋をして2分。


「即席サーモンチーズリゾット〜、なんつって」


 和風に見えるお茶漬けのりだがチーズをいれることで一気に洋に傾くのだ。さけ味の魚介だしが相まってとろとろのチーズと少しふっくらした米はリゾットを彷彿とさせる。揚げ玉が出汁をしっかり演出してくれるところもいい。原価百円以下。 最高だな。


「さてと、食いながらツエッターでもみるか」



<岡本英介最強すぎる>

<かっこいい……ワンちゃんもかわいい>

<次の配信も期待! 次はどんなモンスター倒すんだろ?>

<グルメ動画すこ>

<弓って残念武器だと思ってたけどこれはいいな>


 ひしひしと満たされていく承認欲求。自分の中にこんな気持ちがあったことに驚きながら俺はツエートを眺める。


<かっこいいです! 結婚してください!>

<えっちな女の子じゃだめですか……?>

<岡本さんみたいな人が理想です!>


「なんだよ、英介。ニヤニヤして」


「なんでもないよ、ただちょっと嬉しいだけ」


「ふーん、お前も親父に似てきたな」


「えっ?」


「面白いことしてる時の顔、すげー似てる」


 シバはそういうと少しだけ寂しそうに俯いた。コイツにしたら、大好きな相棒に死なれたんだ。犬神ってのがどこまで犬なんだかわからないが、犬は人にすごく従順だしな。


「そうかよ、一応親父の息子なんでね」


「そういえば、今日は音奏こないのか?」


 言われてみると、今日は音奏の襲撃がない。もう昼前だというのに……。いつもなら勝手にドア開けて入ってきてキャンキャン騒ぎ立てるのに……。

 スマホを見ても彼女からの通知はない。


「クラブとやらで二日酔いかね」


 俺がそういうとシバは少しだけ不満そうに尻尾を揺らした。


「音奏はお前の母ちゃんに似てる」


「は? いや、まぁ言われてみると……似てなくもないかも」


 うちの母親は底抜けに明るくて、楽観的な人だ。時代が時代だったならギャルになっていたのかもしれない。

 俺は冒険者の父と楽観主義の母親に育てられ、父親が死んだ時にと強く思った。

 どんなにやりたいことでも楽しくても死んでしまったらおしまいだと思っていたから。


「そうそう、お前の親父と母ちゃんが出会ったのもこんな感じで母ちゃんが押しかけてきてさ〜」


「やめてくれ、親の恋愛話なんか一番聞きたくないぜ」


「じゃあ俺、音奏くるまで寝る」


 シバはケケケと笑うと自分のベッドに飛び乗って丸くなった。そう言われてみれば、シバが家族ではない人間に懐くのは珍しいな。


 俺はお茶漬けを食いながらもう少しだけ女からのDMを堪能することにした。



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