第58話 俺、前途多難
「で、月200万のタワマン申し込んだの?」
「あぁ……ほんと」
音奏もびっくり、雪平さんもびっくりだ。
「ってもさ、事務所としてもまだ案件数のポートフォリオもないし、配信者としてまだ1年も経ってないからね」
ウィスキーをロックであおりながら雪平さんが申し訳なさそうにいった。そりゃそうだ。もしも俺が不動産のオーナーなら「冒険者で配信者(最近始めた)」じゃあ流石に貸せないわ。
だが、高級マンションは金さえあればいいらしい。敷金礼金で500万近く払うんだ。まぁ、冒険者だろうが配信者だろうがなんでもこいってことだろう。
4LDKの眺望最高の50階。風呂もトイレも綺麗でなんとテイムモンスターも犬猫型ならOK。まぁその分敷金取られてるし。
「ただ、お部屋紹介や共用部分での撮影は動画も写真も禁止。うぅ厳しいぜ」
「まあ、でも一時的にってことでしょ?」
「あぁ、放火犯は多分俺を狙ってのことだろうし……そいつが捕まったらその……一軒家とかも考えようかなって」
「じゃあ、私と同棲?」
「その前に、親御さんに挨拶な」
音奏はむすっとする。地雷だとしてもなんだとしてもやっぱり20歳の娘さんと同棲なり結婚を前提なりなら挨拶はすべきだ。特に、俺は年上だし……冒険者でいつ死ぬかわからないんだし。
「いいよ、うちの両親は。おばあちゃんなら」
「僕はもう寝るよ」
雪平さんはさっと逃げるように寝室へと上がっていった。空気を読んでくれたらしい、ほんと引っ越しが済んだらちゃんとお礼をしないとな。
「おやすみなさい」
俺と音奏は雪平さんに挨拶をしてからしばらく沈黙の時間を過ごした。
「親御さんとなんかあったのか?」
カップルというのは対等であるべきだ。どっちが強いとか弱いとか男とか女とかじゃなくて、大事なことは共有できる関係。
「あまり仲良しじゃないんだ」
「あぁ、なんとなく察してるよ」
「実はね、一人っ子ってのも嘘なんだ」
「お、おぉ」
「引いた?」
「いいや、一人っ子って言ってたっけ?」
「あ〜ひどーい」
と彼女は茶化したが目の奥は悲しそうなままだった。だから俺はテーブル越しに彼女の手を握った。
「で、なんで一人っ子だと嘘を?」
***
伊波家は地元では有名なお家柄の良い家だそうだ。父方の祖父は開業医、父方の祖母は政治家の娘。音奏の父親は区議会議員を務めている。
音奏には医者をする姉と政治家を目指すために帝大法学部に通っている弟がいるらしい。
「で、なんで音奏はおばあちゃんの家に?」
「私ね……小さい頃にお受験に失敗して勉強が苦手でね……。お母さんは、お姉ちゃんが有名高校に受かって弟のお受験が成功した段階で私を見捨てたんだ。「
「でもその感じなら音奏のお母さんもお嬢さんだろ?」
「ううん、ママはね。その……」
音奏の母親はホステスだったそうだ。そのため、父親の家の人たちから「優秀な子は産めない」といびられ、過剰なまでの教育毒親になっていたようだった。だから、デキの悪かった音奏を貧乏な母親(音奏にとっては祖母)の元に預けて見ないようにしてたんだろう。
「ママはね、自分の出身やおばあちゃんが貧乏なことを恥ずかしがってたんだ。だから、音奏はいらない子だからそこに行けって……」
「ひでぇな……」
「でもさ〜、実家にいるよりもおばあちゃん家にいるほうが楽だったんだ。おばあちゃんは優しかったしちゃんと私を育ててくれたし。だから、おばあちゃんには挨拶してほしいなぁ〜、なんて」
なんか、胸糞悪いな……。
「なぁ音奏。おばあさんに挨拶はさせてほしい。けど……俺はちゃんと両親にも挨拶させてほしい」
「えぇ、でもあの人たち私のこと娘って思ってないよ?」
「思ってなくても、娘だ。それに、ちょっといい考えがあるんだ」
「なになに? 聞かせて」
「まぁ、俺の色々が落ち着いたらな」
そう、俺は音奏との未来を決めるなら絶対にこうすると決めていることが一つだけある。そんでもってちょっとだけ、音奏の両親を見返してやりたいとか思っている。
ま、実行するのはずいぶん先になりそうだ。
「さ、明日は家具家電探して……まぁタワマンはたくさん部屋あるし……頻繁に来てもいいぞ」
「うん! たくさん買っていくね!」
「いや、流石に食料くらい自分で買うよ」
「ほら、この前たくさん買ったのに燃えちゃったじゃん……?」
音奏がぽっと顔を赤くした。
"***あとがき***
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次章「英介タワマンでイチャイチャ!」お楽しみに。本日17時の更新はお休みです。
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