第2話 俺、バズってトレンド1位になる
「お兄さん、ツエッターってやってる?」
「やってるけど……」
スマホのアイコンをタップしてSNSを開く。
「変わりないけど、どうしたんだ?」
「トレンド!」
音奏はパッと俺のスマホを奪うとパチパチを画面をタップし、こちらへ寄越す。
<日本のトレンド>
1位 岡本英介 30000以上のツエート
2位 岡本さん
3位 謎の冒険者
4位 でかい柴犬
5位 伊波音奏
6位 SS級 瞬殺
7位 救世主
8位 岡本英介 何者
トレンド欄というのはツエッター上でその時間帯にもっとも検索されているワードである。
ずらっと並んでいるのは俺の名前だった。
俺は初めてのことにドッキドキしながら一番上の「岡本英介」の名前をタップしてみる。
@冒険者好きな犬
めろちゃん助けたお兄さん、岡本英介っていうの? 配信者?
@めろちゃん好き
SS級瞬殺で、でかい柴犬に乗ってるとか主人公すぎるぜ岡本英介
@snxo,spi1
岡本英介って人カッコ良すぎて死ぬ
@紅
岡本英介すこ
<画像を表示しますか?>
そこには俺があのケンタウロスを倒した時の動画や、俺の顔をズームした写真、それからいろいろな妄想や憶測がずらっと並んでいた。
ページを更新すればするほど俺の名前はツエートされ続け、どんどんと俺の名前が拡散されていく……。
「お兄さん、超バズってる! やばば! やっぱあのモンスター強いやつだったんだよ! すごいじゃん!」
俺は頭が混乱しつつも、ほんの僅か心の奥底で承認欲求が満たされていく心地よさを感じていた。
会社では虐げられている俺が……日本中の人がすごいと認めている。その事実は俺の優越感を満たし、焦りを少しずつ消していく。
「ってことで〜、はーい! こんにちは、メロディーでーす!」
音奏はスマホを内側に向けるとニッコニコでスマホに向かって話し出す。
「今、私を助けてくれた救世主のお兄さん! 岡本くんとキャンプしてまーす! イェーイ♪」
音奏はキャンプ中の焚き火や飯を撮影してから俺の方に近寄ると、肩を組んで俺を画角に入れる。
スマホの画面を見るとライブ配信されているようで微妙な俺とカメラ写り抜群の音奏が映し出されている。
「岡本くん、自己紹介して〜」
「えっ、岡本……英介です。えっと、ダンジョンでキャンプするのが趣味です」
「そう、岡本くんはたまたまキャンプしてたキャンパーさんだよ! 私の命の恩人! みんなもありがとう言ってね〜! あっ、チャリンサンキュー」
画面には大きく金額とコメントが映し出される。チャリンというのはいわゆる投げ銭というやつだ。
「やば〜、みんな岡本くんのことすごいって褒めてる! そりゃそうだよね〜、弓矢でバーン! 瞬殺! カッコよかったよね〜」
あんまり褒められるとこそばゆいな。
スマホを見ながら自分が写っていることに対して恥ずかしくなってきた俺は足元にいたシバを抱き上げた。
シバはケンタウロスの蹄を前足で抱いたまま、状態を理解しているようで円な瞳をカメラに向ける。
その途端、スマホの画面上にチャリンの表示が大量に表示される。
<イッヌかわいい>
<これはもふもふ>
<シバケツ見せてくれ>
<岡本英介最強じゃん>
<くっ、これは勝てない>
シバの尻尾がぶんぶんと嬉しそうに揺れ俺の腹に当たってくすぐったい。こいつ……齢数百年のクソジジイのくせに可愛子ぶりやがって!
「みんな岡本くんにお礼は言えたかな〜? じゃあ、次の配信までまたね〜」
とてもライトに配信を終えると音奏は「ありがと、めっちゃ稼げちゃった」とウインクした。
俺が見ていただけでも数十万は投げ銭があった、俺の月給以上は……すごい世界だ。
「じゃあ、送るよ」
「うん、ありがとう。ねぇ、また連絡していい?」
「いいけど……平日はやめてくれよ。仕事してるし、土日ならまぁいいかも」
「おっけ〜」
俺はご満悦で蹄にかぶりついているシバを番犬に残して音奏をダンジョンの入り口まで送った。
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