第49話 俺、彼女といちゃつく
「高橋さん、燻製機の中の卵と肉を少しシバにあげてみます……?」
「あげるあげる!」
シバもノリノリである。シバと高橋さんのツーショット一番いいねが取れそうだな。セクシーとかわいいだもんな。
「もうすぐご飯炊けそ〜」
音奏が飯盒のようすをチェックしてくれているので俺はチキンカレー作りを進めていく。今回は豪華に2種類。トマトベース、ほうれん草ベースで事前に作ったカレーソースに火を通したビッグコカトリスのもも肉を投入する。もも肉は表面をかりっと焦がしてから……。
2種類のカレーをそれぞれダッチオーブンで煮込みつつ、俺は溶き卵を必死で作る。ビッグコカトリスの大きな卵を丁寧に割ってから白身と君が黄身が完全に混ざりきる用にかき混ぜていく。
「音奏〜、ご飯が炊けたからバター混ぜといてくれる?」
「了解〜! あぁ〜カレーのいい匂い」
スキレットにバターをひいてたっぷりの溶き卵を入れる。ふわふわオムライスをつくる要領でかきませながら卵に均等に火を通していく。ちなみに、コカトリスの卵は生食もできるので問題ない。
「高橋さん〜、ほうれん草とトマトどっちがいいっすか?」
シバに夢中な高橋さんに声をかけると彼女は
「どっちも!」
と難しいオーダー。
「じゃあ、牛丼のあいがけ方式だね〜」
音奏はご飯を皿の中央に盛り、半分にトマト半分にほうれん草カレーを注ぎ俺にひょいと渡してくる。俺の彼女天才かよ……。
俺はできあがったふわふわオムレツをカレーの上に乗せてテーブルの上に置いた。
「できましたよ〜」
「わぁ……これナイフでぱっかーんってするのよねぇ」
「はい、お先にどうぞ」
「いっただきまーす」
美味しそうに食べる高橋さんを音奏が撮影して、俺は音奏のトマトカレーに次のふわふわオムレツを乗せた。
「はい、これは音奏のな」
自分のを作ろうとした時、シバがカリカリと俺の膝をひっかく。
「シバ、どうした?」
「英介、おれもふわふわたまご食べたい。カリカリにかけて」
「了解」
俺は一旦テントに戻るとシバの餌を皿に入れる。お気に入りのカリカリにちょっと高いカリカリをブレンドしたものだ。
シバは犬神だからしょっぱいものでも大丈夫だけど、素材の味が好きだから塩胡椒は抜きで作るか。
「ちょっと待ってろ」
「英介、ありがとう」
シバのオムレツを作っている間、向かい側では高橋さんと音奏がお互いにカレーを食べさせあったり喜んだりする多幸感溢れる撮影が行われていた。ここはダンジョンだぞ……? 幸せかよ!
「あいよ、シバ。熱いから気をつけな」
俺はスマホでシバがハフハフするところを一通り撮影してから自分のオムレツカレーを作った。ふわとろで甘い卵、弾力があってしっかりとした食べ応えのもも肉、そしてそれをキャンプの定番であるカレー。
——控えめにいって最高だ。
「撮影終わったか?」
「うん、ばっちり! お先にありがとう」
「いえいえ、いただきます」
俺もやっと一口、美味い。
「さ、やっと主役が来たんだし燻製とビールで乾杯しますか!」
高橋さんがクーラーボックスからビールを取り出して俺たちに手渡す。燻製チーズとソーセージ、かまぼこにさきいか。いや〜香りだけでいっぱいいけますわ。
「かんぱーい!」
***
「高橋さんまじで言ってます?」
「おおまじよ! こんなの一生に一回あるかないかでしょ?」
「いや、ここダンジョンっすよ?」
「ダンジョンでもなんでもいいの! 私はもふもふの大きなシバちゃんにつつまれて寝るんだから!」
高橋さん、テントの中に寝袋を用意したが絶対にシバと寝ると言って聞かないな。まぁちょっと予想はついていたんですけどね。
酔っていることもあってワガママに拍車がかかってやがる。
「シバ大丈夫か?」
「おう、まかせろ」
シバがたわわ派でよかったすね。高橋さん。彼女は巨大シバが丸くなってる中央に身を収めると「もふもふ」とか「ちゅぅ」とかモゴモゴ言いながら眠りについたようだった。
「じゃあ、俺らも寝ますか」
「うん」
音奏と俺はテントに入り、2人用の寝袋に足を入れた。そもそも、テントという狭い空間に2人きりで入るのは初めてだ。しかも、2人用の寝袋……。
「あの……さ」
「どうした? 寒い?」
俺は緊張して口数が多くなる。
「ううん、手。繋いでもいい?」
「あ〜、いいよ……」
音奏が寝袋の中で俺の手を探りきゅっとカップル繋ぎをする。そのまま握り合った手を俺の腹の上に位置取った。
「岡本くん、あったかいね」
「そうっすね」
「なんで敬語?」
「緊張してて……ほら恥ずかしながら彼女とか初めてだし」
「じゃ、その……みんなに発表したことだしさ。シてみませんか?」
音奏がじっと見つめてくる。ランプの小さな灯りだから余計に可愛く見えて破壊力が抜群だ。
「で、でもここダンジョンだし。外には高橋さんもいるし」
音奏がぐっと体を寄せてくる。腕にあたる感触が柔らかくて俺は覚悟を決める。あれ、でも持ってきてないな……?
「岡本くんのえっち……」
耳元で囁かれて、俺は自分が盛大な早とちりをしていたんだと気付かされる。そうだ、彼女は「何を」するのか言ってないじゃないか。
「えっと、何をしてみたいんだ……?」
「それは、その……だから、き、き、キスとか」
そうだ。この前しようとして……できなかったんだっけ。なんて思い出していたら彼女が手をぎゅうっと握ってくる。緊張しているのか少し震えているのか……?
「岡本くん、しよ?」
一番かっこいいキスの仕方とか、こういう時全然思い出せなくてためにならなくて、多分すごくカッコ悪かったかもしれないけど……。
俺はそっと彼女の頬に触れてゆっくり抱き寄せてそれから唇を重ねた。
"***あとがき***
お読みいただきありがとうございます!連続して後書きごめんなさい。
次章は、「英介、家を失う?」お楽しみに!
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