第106話 俺、新しいマネージャーに会う


「久々のキャンプ最高だったねぇ〜」

 ご機嫌の音奏はシバを抱っこして浴室へと連れていった。というのも、ダンジョンの帰りはシバの肉球洗浄タイムなのだ。俺ももちろん同行する。

「なぁ、英介。温泉、まだ?」

 シバは音奏に四肢を洗われながらも不満そうに言った。そういえば、犬も入れる温泉宿を探していたがバタバタとしていて実現はできてなかったっけ。

 けど、俺も相田さんからDLSの勧誘を受けてるし……とは言ってもシバの息抜きは正直そろそろ必要だとは思う。音奏と俺が付き合い始めてからのんびり休日に旅に出たりできなかった。その上、よくも悪くも音奏はハイテンションで俺とシバのおっさん組は振り回されっぱなしなのだ。

「温泉いくかぁ」

「いいね〜、シバちゃんも一緒に入れるところ探そうねぇ」

「シバはテイムモンスターだけど毒とかそういうのないし、ちゃんと証明書出して貰えば一緒に足湯くらいなら入れるんじゃないか? まぁ、普通の犬と扱いは同じだな」

 ちなみに、シバのおでこに日本手ぬぐいを乗せるだけできっと俺のSNS投稿よりもはるかにバズるだろう。想像しただけで可愛いんだから。

「撮影するなら協力してくれる旅館探さないとだね、英介くん」

「だな、雪平さんに連絡入れとくわ」

 温泉にでもゆっくり入りながら、相田さんからの打診をゆっくりと考えよう。一般社会から離れて半年近く、俺はすっかり配信者兼インフルエンサーになってしまったので一般常識が欠落し始めているかもしれない。

 何より、組織に属することへのトラウマや抵抗が自分の中に少なからずあるのだ。もう少しだけ、自分と向き合わないと……。


「あ、そういえばウチら新しいマネージャーさんになるって言ってたよ」

「え? いつ?」

 シバの四肢をふわふわタオルで拭きつつ、俺は眉を顰める。

「え〜、英介くんグルチャ見てないの? 言ってたじゃん。今日の午後挨拶に来るってさ」

「まじかよ」

「も〜、しっかり事務所とのチャットは確認しないとね〜」

「はい、すんません」

 足が綺麗になってご機嫌なシバと一緒にリビングに戻って、ふかふかの高級ソファーに座りスマホをチェックする。

 確かに、音奏の言う通り雪平さんから「明日の午後ご挨拶に伺います」と連絡が来ていた。社会人失格だ。いや、社会人じゃないからいいか。


「英介くん、お茶飲む〜?」

 キッチンの方から声をかけられて返事をする。しばらくするとグラスに麦茶をいれて音奏が持ってきてくれた。

「ありがとう」

 と受け取って、一口。やっぱり、麦茶は安くて大容量に限る。実家の味って感じで安心するのだ。彼女は俺の隣に腰を下ろすとぐいっと体重をかけるように寄りかかり、頭を俺の肩に乗っけた。さらさらした髪が俺の腕や手にかかってくすぐったい。

「なぁ、音奏。シャワー入ってこいよ」

「えっ〜? 英介くんってば、積極的♡」

「違うぞ」

「え?」

「いや、ちょっと土臭いかも俺たちって思って」

「確かにっ……新しいマネさん来る前に入っちゃわなきゃ!」



***


 別々にシャワーに入った後、すぐにチャイムが鳴った。オートロックを解除し、雪平さんと新しいマネージャーさんらしき影が見えた。


「どきどきするねぇ」

「だな、雪平さんにも世話になったからちょっと寂しさもあるけど。シバ、ご挨拶するからちょっといいか」

「ん〜」

 シバは窓際で骨のおもちゃを噛んでいたがパッと口を離すと俺たちの方へとテクテク歩み寄ってくる。午後の日光を窓越しにたっぷりと浴びて、シバのトースト色はほかほかとあったかい。

「新しいマネージャーさんが犬好きだといいな」

「確かに……けどシバちゃんならマジックにかけちゃうから大丈夫!」


——ピンポーン


 自宅の前のインターホンが鳴って、どきどきわくわくだった俺たち2人と1匹は玄関へと向かった。


「はーい」

 俺がドアを開くと、そこにはにっこり笑顔の雪平さんと美しいスーツ姿の見慣れた女性が立っていた。


「高橋さん?!」

「有紗ちゃん?」

「有紗〜」


 わかっちゃいたけど、やっぱりちょっと嬉しくてそんでもって専属のマネージャーがついてイッパシのインフルエンサーになった実感が湧く。


「今日からみんなのマネージャーを担当します。高橋有紗です。ふふふ、私は厳しいわよ。よろしくお願いします」


 







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