第33話 俺、ギャルを大切に思っている
「英介、メシ」
「はいよ」
今日も今日とてシバアラームに起こされて、俺は体を起こした。
「今日の気分は?」
「カリカリと……ささみ」
「はいよ」
「なぁ、英介。音奏は?」
「それが連絡ないんだよ。電話も出ないし」
シバが心配そうに顔を上げた。新調した唐草模様の可愛い首輪のおかげで可愛さの破壊力が数万倍になっている。
「今日あたり、家に行ってみるか」
「うん、俺寂しい」
俺はしゅんと耳を下げたシバの頭を撫でてスマホを眺める。いつもならうるさいくらいにメッセージを送ってくるのに、既読すらつかない。あの配信切り忘れ事件からもう1週間。
流石に心配だ。
新たなストーカー的な何者かを刺激してしまったとか……? いや、一番濃厚なのは事務所に怒られてスマホを取り上げられてるとかそういう方面か。
うーん、彼女はインフルエンサー。流石に俺が深いところまで関わりすぎると迷惑をかけてしまうか?
「電話してみるか」
と思ってスマホを持ち上げた時だった。
「ただいま〜!」
どかーん! とドアを開けて音奏が部屋にガタガタと上がり込んできた。
「音奏っ!」
シバがぴょんと飛び跳ねながら彼女に飛びついた。
「シバちゃんっ、久しぶり〜! あっ、岡本くんも久しぶり〜」
「音奏……」
「なになに〜? 会えなくて寂しかった?」
「んなっ、べ、別に」
「英介寂しがってたぞ、さっき迎えに行くっていってた!」
シバのやろう……。音奏はシバの密告ににんまりと笑うとポケットの中から一枚の紙を取り出した。
「じゃじゃ〜ん! 伊波音奏、20歳! SSS級に認定されましたっ!」
彼女が取り出したのはSSS級の認定書だった。しっかりと日本冒険者協会の判子が押してあり、音奏のサインもある。
「まじか」
「うん、岡本くんに心配かけたくなくて1人でこっそりSSS級のダンジョンに入って頑張ってたんだ」
その言葉を聞いて俺は嬉しいようなどきっとするような複雑な気持ちになった。
「ね? すごいでしょ? 褒めて褒めて〜!」
「1人で?」
「えっ、うん。SSS級の中でも倒せそうなモンスターがいるダンジョン調べて、配信はしないけど動画とか撮影してさ」
嬉しそうに、誇らしげに話す彼女。本当なら「すごいな」「よくやったな」と称賛の言葉をかけることが正解だろう。でも、俺の中ではそんな気持ちにはなれなかった。
「危ないだろ、1人で……しかも格上のダンジョンにいくなんて」
「えっ」
「せめて、一言欲しかったよ。1人ダンジョンに入るってのはいつ何があってもおかしくないだろ」
「ねぇ、岡本君は私のこと信用して……くれてないの?」
その表情は反則だ。ただでさえ可愛い系の音奏が涙をいっぱいに浮かべてこちらをじっと見つめて……。メイクのせいもあってかびっくりするくらい大きくてキラキラした瞳、肌なんかゆで卵みたいにツルピカだ。
「ごめん。ただ、さっき1人でダンジョンにいたって聞いた時、怖いって思ったから……、そのもしものことがあったらって。でも、ごめんな。そうだよな、音奏もSSだったんだし、強いのにな。俺、調子に乗りすぎだな、あはは」
恥ずかしさを隠すように後頭部を掻いて俺はすっと後ろに下がった。あ〜クソ、きまずい……! 何ガチトーンで話してんだ俺は……。
音奏の顔を見ていられずに後ろを向く俺、あぁ、次はなんて言葉をかけよう?
くっそ……学生時代にまともな恋愛せずに社畜になったせいで全くこの先の展開がよめねぇ……、情けない。
「ごめんなさい」
小さな声が聞こえたかと思うと、ぎゅっと背中側から抱きしめられて俺は体を硬くした。腹当たりに音奏の小さくてギラギラネイルの手がふっと触れた。背中に鼻を擦り付けられ、ちょっとくすぐったい。
「音奏……?」
「心配させて……ごめんなさい。私、自分だけの力でSSS級になって岡本くんにふさわしい相方になりたいって思ったんだ。でもね、逆の立場だったら私すごく心配する。だから、岡本くんの気持ちわかるよ。ごめんね」
そっと背を重ねて、彼女の手を甲を撫でてから俺は彼女から離れ、向き合った。
「でも、おめでとう。SSS級。あ〜もう、泣くなって」
「う、う、うえ〜ん」
安心したのかなんなのかボロボロ泣き出ながら半分笑っている音奏に抱きつかれて俺も思わず笑ってしまう。涙と鼻水でTシャツがぐじゃぐじゃだし、ずしんと体重がかかって重いし……。
感情を出すのが苦手な俺と違って素直で表情筋の緩い彼女と一緒にいるとなんだかこっちまで素直になってしまう。
「あぁもう、オマエたち結婚しろよ〜」
シバもぴょんと俺たちの間に飛び込んできて頬擦りをする。なんだ、これもしかしてめちゃくちゃ幸せなんじゃ……?
「岡本くん、さっそくL級! 挑戦しよ!」
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