7章 俺、実は日本一だった件
第34話 俺、役人に囲まれる
シバのメシ任務を終えて、俺はゆっくりコーヒーを飲みながら優雅に動画編集をしていた。
「おはよぉ」
「おはようございます」
眠たそうに起きてきた音奏はボサボサの髪を手櫛で整えながら洗面所へと入っていった。
音奏の分のシュガートーストを温め直して、彼女好みのココアを淹れる。今日こそはどのL級ダンジョンに行くか決めて申請を出しに行かねば。いや、本当に久々だな……。
日本冒険者協会の本部は千代田区にあるため結構な遠出だ。車で行くより電車の方が早いかもしれない。
いや……平日の昼間なら渋滞はしてないか。
「ねぇねぇ、岡本くん。私SSS級になったんだしご褒美ほしいな〜?」
「ご褒美ですか」
「そうですよ〜。だってだって、すごーく頑張ったんだよ〜? それに、SSSになるって結構すごいことじゃん?」
それはその通りである。
SSS級になれるのは冒険者の中でも一握りだし、俺は彼女をみくびっていたのかもしれない。俺の相棒はシバだが音奏をパーティーメンバーの1人として考えてもいいかもしれないな。
「まぁ、そうだなぁ。ってもご褒美って……?」
「決まってるんじゃん!」
もう慣れっこだがギャルは話に「主語」がない。いや、この場合目的語か? とにかく、それじゃ俺に伝わらないぞ、伊波さん。
「決まってるんですね〜」
「あ〜、岡本くん冷たいなぁ〜」
俺の前に回り込むときゅっと両手を掴んでじっとこちらを見つめてくる。可愛いがこれは悪いことを企んでる時の彼女の顔だ。
「まだ、お金は入ってませんよ」
「お金はいらないよ? そうだなぁ、1人1500円ってとこ」
「カードはダメ。現金のみ。あと小銭も必要だよ」
「どっか行きたいのか?」
「うんっ、今日のお昼ねっ!」
「はいはい」
***
黒烏龍茶を片手に30分近く並び、やっと席に着いた俺たちは目の前に置かれた迫力満点のラーメンにごくりと喉を鳴らした。
俺は、ヤサイと呼ばれるモヤシと背脂を多めにトッピングしたもの。一方で音奏はヤサイ・ニンニク・アブラ・ガリマヨ。コッテコテの大盛りラーメンを前に目を輝かせている。
「いただきまーす!」
「いただきます」
ニンニク風味のもやしは熱々でスープをレンゲでかけてから食うとシャキシャキしつつもコッテリと口の中を温めてくれる。しばらくもやしを食った後に掘り出した太縮れのワシワシ麺は食べ応え抜群。
「うんまぁ」
隣にいる音奏も夢中でラーメンを啜っている。幸せそうな顔しやがって……。
麺がワッシワシな分、背脂が甘くコーティングしてくれて非常に食べやすい。ほろほろで分厚いシャーシューを一口食べれば極楽、天国。
しばらくラーメンを食ったら今度は頼んだ半ライスに生卵を落とし、その上にほろほろチャーシューと背脂、スープをかけてぐじゃっと混ぜて一気に掻き込む。
「うますぎ……」
ぱっと隣を見れば音奏は丼を持ち上げてスープをごくごくやっていた。
——死ぬぞ……
野郎系ラーメンをがっつり注文してスープを飲み干すギャルに店員も客も釘づけた。
「ぷはぁっ、ご馳走様でしたっ! 岡本くん、早く早く」
「ご、ごちそうさんでした」
俺も急いで残りの麺を啜ると店主に会釈をして店をあとにした。空になったペットボトルを店の外にある自販機の隣のゴミ箱に捨てる。
「おいしかったね〜」
「すごい食いっぷりだったな」
「普段は太っちゃうからあんまり行かないんだけど、ご褒美! 岡本くんと一緒にきたかったんだぁ〜。ありがとね、付き合ってくれて」
「いえいえ、びっくりしたわ。寝言通りのオーダーで」
俺の言葉に音奏は真っ赤になるとポカポカと俺の背中を叩く。にしてもすごい食いっぷりだったなぁ。細くて小さい体のどこに入ったんだか……。
「でもさ、岡本くん。ドン引きしないんだね?」
「なんで?」
「だって、普通女の子がこういう系のラーメン好き〜ってガツガツ食べてたらびっくりしない? あっ、寝言はなし……だよ?」
うーん、確かにギャップはあったな。
「まぁギャップはあるけど、いいんじゃないか? 好きなもん食えばいいと思うよ。美味しいそうな顔がその……まぁ可愛いと思うし」
と言ってみて恥ずかしくなって、俺は顔を背けた。
「じゃ、じゃあまたご褒美に一緒に食べてくれる?」
きゅっと小さな手に握られて心臓がびくんと跳ね上がる。指先の感覚から彼女がネイルの先が俺の手に当たらないように気を遣っているのがわかった。ラーメン食った後だからか妙に体温があったかい。
「ま、付き合ってやらんこともない」
「やったぁ〜!」
「じゃ、送るよ」
「え〜、今日も泊まる〜」
「部屋がカビるぞ」
「今日だけ!」
「今日だけな……」
なんて会話をしながら車に乗り込み、俺たちはボロアパートへと戻った。来月に入ってくる収益によってはここを引っ越すことを考えるか……?
いや、でもかなり気に入っているんだよなぁ。なんというかボロさといいクタっと感といい。高橋さんをはじめとして近隣住民とも良い関係を築いているし。
「あっ、シバちゃんのお散歩は今日私が1人で行く〜」
「はいはい、お好きにどうぞ」
「有紗ちゃんもいたら誘おうかな?」
「あんまり迷惑かけるなよ、仕事大変なんだから」
ボロアパートの階段を上がり、パッと視線を上げると俺の部屋の前にスーツの男が3人。俺を見つけるとこちらへと近寄ってくる。
なんだなんだ?
突然のことに、退路を確保しようと振り返ってみるも階段の下にもいつのまにかスーツの男たちが立っていた。
「えっと……なにか?」
「岡本英介さんですね。日本冒険者協会のアイダと申します。あなたにご協力いただきたく本日は参りました」
アイダと名乗ったおっさんは申し訳なさそうに眉を下げると俺と音奏に深々と頭を下げた。
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