第35話 俺、日本1だった件



「いや、ほんとにすみません。押しかけちゃって」


 アイダさんと部下の人を家にあげたとたんペコペコと頭を下げる2人。俺も同じように「とんでもないです」とぺこぺこする。

 ペコペコする義理はないが、社会人時代のクセである。


「はーい、お茶どうぞ〜」


 まるで妻のように勝手にお茶を出す音奏にお礼をいいつつ、俺はシバが全く警戒していないところをみて彼らに悪意がないことを悟った。


「すみません、狭いですが」


「とんでもないです。えっと、今日は急ぎの相談がございまして」


 アイダさんは俺に名刺を渡すと正座してなにやら資料を取り出した。部下の人は緊張で震えている。


「は、はぁ」


「おっ、オマエ、相田か?」


 と突然のシバの声に俺はびっくりして彼らを交互に見た。


「おっ、相田じゃん! 久しぶり!」


 シバはブンブンと尻尾をふって相田さんに飛びつくと顔をぺろぺろと舐めた。


「えっと……もしかして」


「ハハハ、まさかシバくんが覚えててくれてるとは。はい、僕は岡本さんのお父さんと同窓生で。彼は冒険者、僕は公務員という違った道に進みましたが冒険者協会で再会して……そう君が小さい頃も何度かお会いしたんですよ」


「そう……だったんですか」


 そう言われてみれば、親父の葬式にいたようないないような。親父は友人が多かったから全員に挨拶はできなかったから覚えていなかったが……。


「おっと、話がそれちゃったね。本題になるんですが、その……もしよろしければ日本冒険者協会に協力をしてくれませんか? って言っても謝礼とかは出ないし、なんというかただの協力関係って感じなんですけど」


 相田さんはハンカチで汗を拭きながら申し訳なさそうに笑った。


「どんな内容ですか?」


「僕たちは君にL級ダンジョンの位置情報を提供する。君はそこを攻略したら撮影した動画の一部を日本冒険者協会に提供してほしいんだ。もちろん、強制ではない。別のダンジョンに行ってもいいし、断ってくれてもいい」


「えっと、どんな意図で?」


「まぁなんというか、情報収集さ。うーん、実はね。日本にいる冒険者の中でL級にしかもL 20なんていう階級なのは君だけなんだ」




——は?



「今、おじさんなんて言った?」


 音奏が悲鳴に近い声をあげた。


「驚かせてすみませんね。L級の冒険者は今……この日本では君1人だ」


「いや、L級って1〜100まで階級があって歴戦の冒険者やそれこそ政府や役所に協力している人たちがいたはずじゃ……?」


 相田さんの顔が曇った。


「機密情報で報道もされていないから言えないが、とにかく今L級のダンジョンへの許可が降りるのは君だけなんだ」


 ダンジョンでは何があるかわからない。

 彼の表情を見るに、まさか他のL級の冒険者が死んだ……? しかも多分すごく短期間の間に。俺以外の全員が。


「L級のダンジョンはモンスターの進化も早い。だから、提携した冒険者がいたときは定期的にピックアップしたダンジョンに潜入をしてもらって調査をしてもらっていたんだ。けど……」


 なるほど、緊急で押しかけてきた件といい結構な緊急事態のようだな。名刺をちらりとみれば彼の役職は「本部長」公務員の組織はよくわからんが年齢的に考えれば上の方のはずだ。


「ご存知かもしれませんが、俺は動画配信をしてまして……それでよければ提供は可能です。ただ……急すぎませんか?」


「色々とあってね……。ただ、現状は機密事項で詳しくは話せないんだ。今のところは日本冒険者協会に少しばかり協力してほしい、ということだけさ」


 やはり……どこかのダンジョンで立て続けに協力者が死んだな。そのせいでL級という規格外のダンジョンの定常監視ができず困っている……と。


「L級ダンジョンに入った後、動画配信の録画をコピーしてお渡しします。入るダンジョンは俺の方で選びます。それなら……」


「ありがとう! ありがとう! あぁ……なんとかクビが繋がったよ……。じゃあ、L級の申請時に僕を呼ぶように言ってください。あぁ……よかった」


 なんのこっちゃ……。

 でも、録画を提供するだけなら俺に不利になるようなことはないし、役所にコネを作っておいて問題はないだろう。



 2人を帰したあと、なんだか疲れた俺はソファーに寝転がった。シバは相田さんからもらった手土産の饅頭をもぐもぐしていたし、音奏はウッキウキでL1のダンジョンを調べていた。


「ねぇ、岡本くん。すごいじゃん!」


「何が? 今思い出したけど、親父もL級に入るのに確か役所に協力してるとか言ってたような気がするわ。俺も大学生の時に声かけられたけど断ったっけ」


「へぇ……そうじゃなくて! さっきのおじさんの話じゃ岡本くん、今日本で一番強い冒険者ってことだよね?」


「日本で一番強い?」


「うん、そう。日本一の強い男ってこと! え〜ん、ちょ〜かっこいいんですけど! 最高なんですけど! 早くダンジョンいって強いところみんなに自慢しよ!」


 さっきまで役所の裏側を探って疑っていた俺、ハイパーポジティブなギャルに引っ張られてなんだかその気になってきた……。


「確かに……日本一か」


「日本一の彼氏! 今日は祝杯だぁ! ねぇ、岡本くん、買い出し行こ!」


「はいはい」


 どうやら俺は、知らぬ間に日本一の冒険者になっていたようだ。



***あとがき***


お読みいただきありがとうございます!

英介と音奏の物語もどんどん進んでゆきます・・・!(結婚しろ)

ぜひ熱い応援お待ちしております・・・!



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