第36話 俺、筋トレに励む
「L級手始めとしてはピッタリだな」
俺が申請したのはL級モンスター「マグマイルカ」がいるダンジョンだ。ぐつぐつ煮えたぎったマグマの中から飛び出してくるイルカをしとめるだけの簡単なお仕事である。
「それでは許可がおりましたらメールでお知らせいたします。今後は郵送でも受け杖できますのでよければ申請書類をお持ちください。あぁ、相田本部長から岡本さんのことは伺っておりますので」
受付のやけに綺麗なお姉さんに言われて俺はいい気分だ。動画配信のアーカイブをコピーして渡すだけでこんなにチヤホヤしてもらえるとは……! 役人にコネがあって悪いことはないしウィンウィンだな。
「じゃあ、相田さんによろしくお伝えください」
「あの、岡本さん」
「はい?」
「L級は大変危険ですからお気をつけて」
「は、はい。何かあったんですか?」
「L級ダンジョンは進化のスピードが早く登録されているモンスターが格段に強くなっていることがあります。その、つい最近白狼のダンジョンで……」
「気をつけます」
受付のお姉さんにお礼を言ってから俺は日本冒険者協会をあとにした。白狼といえば狼系のモンスターの特殊個体でL 15程度だったはずだ。
L級のダンジョンの中でも階級が細かく分かれているのはダンジョンの中でモンスターが強くなったり弱くなったり環境の変化が激しいからである。
今までは日本でも数十人いたL級冒険者が探索がてらに調査に協力していたんだろうが……。
「ちょっと気になるな……」
俺はスマホを取り出して音奏に通話をかけた。
「もしもし〜?」
「なぁ音奏、週刊誌記者の友達がいるって言ってたよな……?」
***
「で、なんでこうなるのよ〜!」
「いいからシバ抱っこして大人しくしててくれ」
「かまってくれるっていうからきたのに〜!」
プランクをしつつ重しとして音奏とシバを背中に乗せて30分。交互に片腕を離しながら体幹をしっかりと鍛えているのだ。
「音奏の友達がどれだけ調べてくれるかは知らないが、ことによっちゃしっかり準備しないと」
「あぁ、L級冒険者1人になっちゃった説ね……話したらあの子目をキラッキラさせてたし、来週には1面記事になっちゃうかも〜」
「さすがに、何かやばい異変が起きてるなら音奏は連れて行けないからな」
「え〜!」
「え〜じゃない」
背中の上で彼女がばたつくものだから俺もバランスを崩す。あっというまに俺も彼女もシバもぐじゃっと床に転がった。
「いてて……英介。オレもう飽きた」
「シバ、ありがとうな」
俺はプンプンのシバの頭を撫でると風間さんが送ってくれた歯磨きガムを一つ取り出して渡した。彼は器用に前足で骨型のガムを掴みつつガジガジする。
「でもさ、まじでL級のダンジョンでやばいことが立て続けに起きてるなら配信どうするの?」
「まぁ、一旦はマグマイルカのダンジョンで配信してその後はSSS級でのんびりでもいいんじゃないか? 俺も収益入ったら新しいキャンプ用品買いたいし」
「確かに〜! 私あれやりたい! マシュマロ焼くやつ」
「了解」
ま、リスナーに宣言しちゃったんだし一度はLと名のつくところにはいかないとな……。
「他のL級の人たちはどこ行っちゃったんだろうねえ」
「さぁ、よくない結果じゃないといいんだがな。さて、音奏続きやるぞ」
「えぇ〜またぁ〜?」
「ほら、2Lのペットボトル抱えて乗ってくれ」
「ご褒美はありますか!」
「2時間付き合ってくれたら、冷凍してあるウサギシチューで最高のドリア作って差し上げます」
「乗った〜!」
念には念をいれてウォーミングアップしておかないと。背中に音奏45キロ(プラス2キロ)を背中に乗せて片腕と片足を浮かせる。そのまま腕立て伏せとプランクを交互に……。
ゆるっとキャンプするのもいいが、強い敵に挑戦したいという冒険者の血が沸々と騒いでいるのを俺は感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます