第37話 俺、L級でも余裕な件


「はーい、はじまりました! 今日は岡本くんと一緒にL級ダンジョンに挑戦するよ〜!」


「どうも、岡本英介とシバです」


 コメントには「本体」コメントが大量に流れている。

 それもそのはず、今日のためにシバはトリミングに行き、まんまるふわふわになっているのだ。唐草模様の首輪もよく映えてトースト色のしっぽが揺れ、柴犬スマイルで視聴者たちを一網打尽にした。


「今日はマグマイルカを倒します」


 透明飛行型カメラを作動させ、ダンジョンに足を踏み入れる。


「音奏〜、足元に気をつけろよ。噛まれたら数時間動けないからな」


「わかってるって」


 と言いつつ、俺は氷の魔法石が矢先についた矢でいくつかの大きな蟻塚をぶっ壊し、マグマ火蟻が出てこないように対策をする。


「岡本くんって一回で複数の矢を打てるの?」


「最大5本までなら」


「やば……」


 俺は5本の矢を同時に放ってみせた。

 それぞれがターゲットの蟻塚にぶち刺さって凍らせてしまう。ちなみに、マグマ火蟻は食えない。

 ただ、足を噛まれると死ぬほど痛む上に痒くなるので申し訳ないが処理させていただいている。


「あれは倒さなくていいの?」


「あぁ、あれは襲ってこないからいいよ」


 音奏が指差したのはマグマアリクイだ。


「へぇ〜Lでも襲ってこないモンスターもいるんだねぇ」


「うーん、まぁこいつらはコンボだからなぁ」


「コンボ?」


「そう、マグマ火蟻に襲われて蟻達磨になっている生物をアリクイがぺろぺろするんだわ。もちろん、アリクイはアリを食ってるわけだが……」


「うえ〜、地獄じゃん。って感じらしいです! みんな、怖いね〜」


 俺は話しつつも蟻塚を丁寧に壊していく。マグマ蟻なのに氷が弱点だというのはさすがL級といったところだろう。ちなみに、水をぶっかけるとマグマ火蟻は鋼鉄にレベルアップして襲いかかってくるので要注意だ。


「さ、中層からは激戦区だぞ〜、音奏準備しとけよ」



***


 中層に降りるといきなり音奏に向かって襲いかかってくるのはゴブリンLだ。冒険者から奪った装備なのか、片手剣をもっているやつや兜だけのやつ、ブーツの片方だけを履いているやつ……。


「このっ!」


 音奏の魔法石でビリビリと痺れるゴブリンLに俺はトドメを刺す。


「ちょっ、なんで私ばっかり!」


「多分一番弱いからだぞ」


 シバがクワッとあくびをしたのをみて音奏がきゃんきゃんと悔しがり、飛び掛かってきたゴブリンを今度は火だるまにした。

 ゴブリンLはSSS級にいるやつらより知能が高く、冒険者の中でも一番弱いメンバーに襲い掛かる。


「音奏、ゴブリンの倒し方は?」


「あっ、そうだ。親玉ゴブリンを倒す!!」


「正解」


 ドシンドシンと奥からやってきたのは太っちょの大きなゴブリンLだった。やつだけフル装備で、ニヤリと音奏をみて笑った。特に、頭にかぶっている兜はマグマを冷やして固めてを繰り返して作った鋼鉄で非常に不恰好だ。

 腐臭で鼻がもげそうになるくらい臭い。見た目もきもいが臭い。


「音奏、やるか?」


「うん、昇給したいし……みてて!」


 とステッキを構えて立ち向かっていく音奏。流石の身体能力ではらりはらりと親玉ゴブリンの攻撃を避けながら着実に魔法を当てていく。

 しかし、親玉ゴブリンは左手に持った盾で攻撃を弾きつつ、ゆっくりと音奏に気が付かれないように向きを変え、彼女を壁側へと追い詰めていく。


 彼女の昇給のために我慢してみていたがダメだな……。


「音奏〜タイムアップだ!」


 俺は通常の矢を親玉ゴブリンの頭部めがけて放った。


「ぐわっ」


 鋼鉄の兜を矢は突き破り、親玉ゴブリンの頭はぶちゃっと嫌な音を立てて破裂した。親玉ゴブリンの頭がぐじゃぐじゃになってどしんと倒れるとさっきまで音奏を襲っていたゴブリンたちはさっと巣の方へと戻っていった。


「さ、ゴブリンたちも片付けたし、最下層へ行くか……。シバ」


「あいよっ」


 シバはぶおんっと煙に包まれると大きいサイズに返信し、ブルブルと体を振った。アルラウネの触手を原料にした首輪は伸び縮みするのでこう言う時にも便利なのだ。


「音奏はシバに乗ってもふもふの中に隠れておくように」


「えぇ〜」


「お前、ビシャビシャマグマが降ってくるんだぞ」


「シバちゃんのもふもふは平気なの?」


 シバがバカにするなと言うように顎を上げる。


「オレの毛はマグマもはじくぞ。音奏を守れる」


「岡本くんはどうするの? マグマ、びしゃびしゃなんでしょ?」


「あぁ、俺は全部避けるから大丈夫」


「へぇっ?」


 彼女の喉の奥からひゅっとおかしな音が出る。そんなに驚かなくても……。


「さ、行くぞ〜」


 彼女は大人しくシバの背中に跨るともふもふの中に隠れるようにしがみついた。これ、配信見てる高橋さんが騒いでるだろうなぁ……。

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