第2章 俺、会社の奴らをざまぁする

第5話 俺、証拠集めをする



 音奏めろでぃーと別れたあと、俺はいくつか突撃営業をしてから会社へと戻った。


「戻りました」


 シーン。

 パワハラの標的になっているからか、俺がインキャできもいからか誰も挨拶は返してくれなかった。


「契約は取ってきたんだろうなぁ?!」


 武藤は俺を見つけるなり怒鳴り始める。いつもなら嫌な気持ちになっていたが今日は違う。


——もっと、もっと俺を罵ってくれ!!


「いえ、その……取れなくて」

「なーにやってんだ!」

 今日1の怒鳴り声とゴミ箱を蹴る音。俺はわざとびくついて武藤を苛立たせる。


「お前みたいなお荷物がいるからみんなの給料が上がんないんだぞ? あぁ?」


「で、でもっ」


「でももへったくれもねぇ! さっさと売上を! 立てろ!」


 その後も罵倒につぐ罵倒。

 散々俺を罵ったあと、美人秘書に「会議ですよ」と言われて彼は去っていった。俺は落ち込むフリをしながら席に着く。


 俺の胸ポケットには録音レコーダー。

 ネクタイピンは隠しカメラ。



***数時間前***



「ぷはぁ〜! 高級中華とビール、最高っしょ! あれ? あれ? 岡本く〜んのグラスがいっぱいだ! さぁ飲んで飲んでわっしょい♪」


 ご機嫌な音奏のコールに煽られながら俺はビールをぐびぐびと飲んだ。酒には強いのでこのくらいなら問題ないし、すごく楽しい。

 ギャルってすごいな、俺たち出会って数日だぞ?


「んで、会社をタダで辞めるんじゃあ勿体無いよね」


「確かに、すぐに配信者になるって言っても俺の給料じゃ機材とか買えないし……」


「お金なら私が出すから大丈夫。そうじゃなくて〜」


 音奏は悪い顔でニヤリと笑う。


「そうじゃなくてなんだよ……」


「パワハラ部長と岡本くんを馬鹿にする女どもにやり返しちゃおう! ってこと」


「やり返すってダンジョンにひきづり込んでぶん殴ってダストゴブリンの餌にするとか?」


「それは最高だけど死なれちゃつまんないじゃん? やっぱ、パワハラ部長には鼻水垂らしながら謝らせて社会的に殺して……女どもには岡本くんが超ハイスペックだって悔しがらせた上で社会的にころそ」


 結果社会的にヤるんすね。姉さんさすがっす。


「まぁ、そうなったらスッキリするけどさ。音奏はどうしてそこまで?」


 俺の質問をまるで愚問だと表情で答えた彼女は


「だって、岡本くんがいなかったら私今ここにいないんだよ? わかる? 命の恩人なの。だからね、岡本くんをいじめる奴は私が許さないの」


「ははは、確かに命の恩人って言われたらそうかも……」


「じゃ、早速だけど。お店出たらアキバに行って隠しカメラとICレコーダー買うよ!」



*** *** ***



「すみません、来客の予定表をみせていただけますか?」


 俺は普段はチャットで済ませるのにわざと受付のクスクス女たちに声をかける。


「……」


 安定のシカト。


「あの、すみません。来客の……」


「なんか聞こえる?」


「ううん、聞こえない。部長が嫌いなユーレーでもいるんじゃない?」


 2人はクスクスと笑うと俺の方を見て拝むようなそぶりを見せた。はい、証拠ゲット。


「後でチャットします」


「……」


 俺は無視してネイルをいじっている女たちに頭を下げるとトボトボとデスクに向かう。

 チャットやメールでも様々な人格否定や嫌味、罵詈雑言や他の社員が俺を「幽霊」と呼んでいる場面などがあったためスクリーンショットしていく。

 そして、一番重要なのが今年の査定で人事から通達された「減給」だ。おそらくあの武藤が不当に評価を下げたんだろう。

 これも立派な証拠になるだろう。


 あとは、ここ数年行っていた朝のサービス出社、サービス残業の勤務実態を資料にまとめて……。


「おい! 岡本! 会議室が汚れてたぞ!」


 武藤が会議を終えて帰ってくる。


——そうだ、いいぞ……もっともっと俺にパワハラをするんだ!!



 こうして、音奏の提案によりストレスフルだった俺の平日が希望に満ちた日々に早変わりしたのだった。


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