第6話 俺、ギャルに飯を作る



 まだ半日なのにたんまりと溜まった証拠をほくほく顔で持ち帰り、スーパーで買い出しをしてから俺はアパートの階段をあがった。

 木造築50年のオンボロアパート2階の角部屋。新卒の時に借りたこの部屋だがなんだかボロさの住み心地が良くて更新し続けている。


 階段をあがりきるとボロい廊下に出る。突き当たりの部屋が俺の部屋だが、そのドアの前に人らしき影がうずくまっていた。

 酔っ払いか?

 隣のお姉さんが結構酒好きでたまーに潰れてることがある。


「あの〜」


 俺が声をかけるとしゃがんでいた人影は勢いよく立ち上がった。


「よっ!」


音奏めろでぃー?」


「来ちゃったっ」


 てへっ、と舌を出してかわいい顔をすると彼女は遅かったじゃーん。とまるで彼女のように俺に言った。

 ラフなTシャツにショートパンツ、もちろん生足で高いヒールの靴。

 バッグはどでかいリュック。一体何が入ってるんだか。


「えっと、なにしてんだ? 人の家の前で」


「何って、待ってたんだよね。岡本くんのこと」


「なんで、ってか俺の家どうして」


 色々混乱しつつも鍵を取り出した俺はドアを開ける。彼女は我先にと俺の部屋に上がり込み、高いヒールパンプスを脱いだ。


「探偵やとって特定した! へへーん、参ったか!」


 なんてドヤ顔のシバを抱き上げて笑う彼女に俺は何も言えなかった。男の部屋に抵抗なく上がるギャル、俺は確かに彼女の命の恩人だが無防備すぎるような……?


「ってのは半分冗談で〜、今日証拠の音声とか動画とか撮れた?」


「あぁ、撮れた。たんまりな」


「よし、じゃあ私が教えたげるから編集しよっか」


「編集?」


 彼女はそういうとでかいリュックの中からスペックのエグそうなノートPCと機材を取り出した。


「机借りていい?」


「どーぞ、言わなくても借りるんだろ」


「わかってるじゃん。カメラとICレコーダー貸して」


「カバンの中に入ってる」


「英介、メシ」


 シバが不機嫌そうにぶんぶんと尻尾を振る。


「わかったわかった」


 要求の多い奴らだ。俺はまず、シバの飯作りから始める。冷蔵庫にストックしてある牛肉を300グラムにドックフード。食い過ぎだろ、まじで。


「シバー」


「英介、はやく!」


「はいはい」


 俺が床に餌を入れた皿を置くとシバはがっついた。リビングでは音奏がなにやらPCをいじっている。どんだけリラックスしてやがんだ。ほぼ初対面の男の部屋だぞコラ。


「岡本くん〜、私もご飯〜」


「金ねぇから出前とかできないぞ」


「今日は何食べる予定だったの?」


「もやし焼きうどん」


「それがいい」


「えぇ……昼高級中華食ってた女の子に食わせるようなもんじゃ……」


「え〜、お金払うから作ってよ〜。もやし焼きうどん!」


 犬神様の餌より原価の安い料理ですよお嬢さん……。

 そうまで言われちゃしかたないと、俺はストック用に買ったもやし2パックとレンチン用のうどんも2玉用意する。

 うどんをレンチンしつつ、もやしは胡麻油でさっと炒めたら一旦皿へ引き上げておく。

 フライパンの水分を拭き取ってアツアツのところに焼き肉のタレをジュッとふたまわし。

 軽くこがしたらそこへうどんともやしを投入。

 中華スープの素や塩胡椒で味を整えたら……完成! 社畜男の貧乏飯!


 瞬く間に部屋中を焼き肉のタレのいい香りが広がって俺の腹がぐぅとなった。


「できたぞ〜」


「やった! じゃあ食べながら作戦会議しよっ! わぁ〜うまそ〜。箸かして? ほかほかだ〜!」


 純粋に喜んでいる様子の音奏に俺はなんだか嬉しくなった。こんなことで喜んでもらえるなんて……。


「いっただきま〜す!」


 高級中華の時とかわらん笑顔で音奏は焼きうどんを啜りだした。

 


 

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