第111話 俺、複数案件をこなす。
「大丈夫、耳栓とキャンプ用品は同じ動画内で紹介していいわ。系列会社だから」
「あざっす、じゃあ配信で紹介しつつアーカイブを上げるときには一旦編集後にお渡しします」
「よろしくね」
高橋さんからの通話を切って、俺は車を降りると自慢のキャンプセットをトランクから取り出した。
「キャンプだ〜! 英介くん、今日は牛肉パラダイス! だね!」
「だな!」
テンション高めの音奏とシバ。
そう、ここはSSS級・キングバッファローのダンジョンである。バッファローの肉は牛肉によく似ていてとても美味しい、ただ足が早いので外には持ち出せず地上には出回っていない。キャンプ内での加工が必須でその上なかなかの強さを誇るモンスターなので「食おう」「狩ろう」という人は俺以外いないと思う。
「みなさん、お久しぶりです」
<おっ、配信きちゃ〜〜!>
<いいねぇ、予告通り>
「今日はSSS級ダンジョンでほっこり飯テロ配信です」
俺がそういうとコメントが一気に盛り上がった。
<ほっこりは草>
<やっぱイカれてるわ>
<めろちゃんと本体かわいい>
「みんな〜、音奏だよ〜。今日は案件で来たんだけどちゃんと買いなさいよ〜!」
なかなか尖った音奏にちょっと驚きつつ、俺も「概要欄からよろしく」と一声。それからいつも通りダンジョン配信へと向かった。
***
このダンジョンは草原が広がるタイプの気持ちが良い場所で見晴らしが良い。
上層から中層、下層へと階段を見つけており、最深層の一歩手前で俺たちはキャンプを設営した。すぐに最深層の階段が見え、大きな木の下でいい感じに動画も映えそうだ。
「じゃあ、サクッと倒しますか」
「英介くん、私は行かなくていい?」
「うーん、バッファローちょっと臭いぞ?」
「そうなの?」
「ほら、牛糞ってわかるか?」
「あ〜、じゃあお留守番してるね」
「了解、サクッと食材取ってくるわ」
1匹もモンスターとぶつからずに最深層まできた俺はキングバッファローと対峙していた。
見た目は動物園にいるバッファローだが、その大きさと独特なツノの形がそのキングたる所以である。
黒い牛の巨体、大きな頭についた王冠のような金色のツノ。ぶるる、ぶるると唸る鼻息は非常に臭い。
撮影用のドローンを飛ばしつつ、俺はぐっと弓を引き絞る。
どの部位もうまいんだよなぁ。シバの好物である脳みそはあまり傷つけたくないし、弓はやめておくか。
俺は腰につけているナイフを2本とって両手に構えるとキングバッファローに向き合った。キングバッファローはブルルブルルと鼻息荒く蹄を鳴らした。
ヤツの足元には牛糞がこんもりと積もっている。
「こっちにきてくれよ」
カンと石を蹴って奴を興奮させると、キングバッファローは大きく立ち上がってから勢いよく突っ込んでくる。
当然のごとくそれを避けて、石を蹴ってを繰り返し牛糞の山から奴を何もない草原へと誘き寄せた。
「じゃ、倒します!」
ドローンの位置を確認してから、俺は再び突っ込んできたキングバッファローの横側に抜け、飛び上がる。俺を見失ったキングバッファローは動きを止める。
俺は上から体重を乗せてナイフを一撃、首を半分近く落としたが落ち切らないので反対側のナイフでもう一撃。
象ほどの巨体がどしんと倒れ、首が転がった。
「よし、ということで、無事倒せました! みなさん、この後枠を変えて料理配信をするので見にきてくださいね〜」
ドローンの電源を落として、一息ついてると興奮したシバが食い始めたので俺も慌てて欲しい部位を捌き始めた。
***
「帰ったぞ〜」
「おかえり〜! わっ、霜降りだぁ」
音奏は俺の持っている肉を見て飛び跳ねた。いわゆる「シャトーブリアン」と呼ばれる部位とそれから中落ちカルビにハラミと呼ばれる部分だ。
「さて、配信つけますか」
「シバちゃんは?」
「まだ、食ってると思う。しばらく戻らないぞ。あれはシバの大好物だからな」
配信をつけると俺は順番に案件の料理道具を紹介していく。良い肉を切りながら、企業から言われたポイントを惜しみなく披露していく。
「この包丁は錆びにくいだけじゃなく、こうして肉をすーっと……切れます」
<これはすーっと>
<すーっとですな>
<岡本くんの声は落ち着くな>
今度は、スキレット。切り出した牛脂をとかし、その上に厚切りのシャトーブリアンを乗せていく。
「あぁ、おいしそぉぉ」
音奏のコメントもいい感じに映像を彩って、焼け始めたステーキに塩胡椒をふってタイムをそえる。
次にキャンプ用の食器の紹介にうつる。
「このキャンプ用のタンブラーは中の模様を自分好みにカスタムすることができます。ちなみに今回は音奏の考えたデザインです」
ピンク色をベースにシバの顔を散りばめたデザインである。
「ちなみに、明日から発売されるので概要欄から予約してくださいね」
タンブラーに並々とビールを注ぎ、俺たちは
「かんぱーい!」
コメントも盛り上がってきた頃に満腹でご機嫌のシバが画面に映り込み、柔らかいステーキや香ばしく炭火で焼いたカルビやハラミを口に運ぶ。
「うんまぁ」
「おっ、音奏ご飯がたけたぞ」
今度は飯盒の紹介を挟んで、おこげがしっかりついた美味しい白米をインサートで移し、そして音奏の可愛い食事カット。
あぁ、なんて可愛い奴なんだ。こんなに美味しそうに食われるとやりがいがあるってもんだ。
「焼肉はやっぱりご飯にバウンドさせないとだよねぇ」
「英介、オレも!」
最後は耳栓か。
「今日はこの後、寝配信もするので見てくださいね〜」
この後の寝配信で音奏の寝言「全マシラーメン」がトレンドに入ったのは言うまでもない
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