第39話 俺、色々と手にする
L級での配信のあと、俺は音奏を送り久しぶりの1人と1匹の時間を満喫していた。
「なぁ英介〜、たまには強いダンジョン行こうぜ」
「ん? 久々に力解放できて気持ちよかったか?」
「うん、でかい魚と戦う英介見てたらオレも戦いたくなった」
ちなみにシバは入るダンジョンの階級によって解放できる力が変わってくる。シバは最大限の力を発揮することができればかなり強い。本人(?)はダンジョンの外の暮らしが気に入っているので、人間と一緒に外の世界で暮らしているが、本来ならダンジョンの中でも余裕で息抜ける素質があるのだ。
「したら音奏抜きで今度行くか」
「オレも久々に狩りする」
「頼もしいなぁ」
「英介、ハラ減った」
俺はシバの飯を作りにキッチンにむかう、お気に入りのカリカリとシバのためにストックしてある牛挽肉をブレンドして……今日は牛脂を2個上に乗っけてやる。
「そろそろシャンプーもしないとだしなぁ」
シバのケツについたモハモハの抜け毛を見ながら俺はちょっとうんざりする。抜いても抜いても永遠に出てくるんだよなぁ、コレ。
「はいよ」
シバに餌をあげて、俺はキッチンに戻った。冷蔵庫の中には俺のイツメン。もやしに豚コマ切り落とし、焼肉のタレ。これだけで普通に優勝だが、ちょっと今日はサッパリしたい気分だ。
「いいレシピないかなっと」
スマホを取り出して、いつものレシピアプリを開こうとした時だった。
+++岡本英介様 お振込のお知らせです+++
銀行の口座情報アプリからの通知だった。会社をやめて数ヶ月、久々にみる通知にドキッとしつつ何気なく自分の口座残高をタップした。
「はぁっ?!?!」
思わずスマホをベッドにぶん投げて、俺は大声を出した。
「いやいやいや、まじかよ?!」
嘘じゃないよな……? 俺の目に入った「お振込」の後に続いた数字はとんでもない桁数だった。ほら、よくSNSで詐欺アカウントが載せているような通帳のスクショみたいな。
「いち、じゅう、ひゃく……せん、まん、じゅう、ひゃく、一千万……?」
俺といえば、くそ余裕なダンジョンでキャンプしてただけだぞ……? 危険を冒して素材を狩っているわけでもなく、ただギャルとのんびりうまいもん食ってただけでこんな大金もらえるもんなんですか!
「シバっ! いつも我慢してた高級カリカリ……買ってやれるぞ!」
「英介、ホントか? 無理してない?」
シバは食べている途中でこちらに顔を向けるとかわいらしく首をかしげた。
「無理してない……むしろ無理したい!」
「英介、意味わかんないぞ?」
「と、とにかく。食い終わったらペットショップ、行こう。なんでも買ってやる」
あと、少しばかり母親に送って……あとは全部貯金だな。あぁ、でも車も買い替えたい……! キャンプ用品も欲しいのがいくつかあったんだよな。くっ、嬉しくて脳がパンクしそうだ。
——まじで会社辞めてよかった
***
その数時間後、うちにやってきた音奏もほくほく顔だった。というのも俺がバズったせいで音奏の方のチャンネルにもたくさんの人が訪れたからだ。
「ほんと、命の恩人さまさまだよ〜」
「いや、俺だって会社辞めろって言われなきゃこうはなってないしお互い様だよ」
俺たちは高級シャンパンでも幻の日本酒でもなくいつもの缶ビールとコンビニのおつまみで乾杯した。缶から直接飲むこの感じがたまらなくうまい。
「シバちゃんのおかげもあるもんねぇ〜。そうそう、この前のマグマイルカ配信。シバちゃんが初めて配信内でしゃべったのが話題になっててさ、なんなら一番バズってたかも」
ケラケラと笑うと、彼女はジャーキーをシバに食わせる。
「なぁ、英介」
シバがちょこんとすわり、ジャーキーを床におくと俺の方をまじまじとみる。
「どうした?」
「オレ、嫌な予感する。英介、音奏と契約しろ」
音奏が首を傾げる。
「シバちゃん、契約ってなに?」
「お前らちゃんと恋人のちぎりしろってことだ。英介がオレにメシ、くれなかったら英介死ぬ。でも、音奏と英介恋人なら……英介がメシ作れない時、音奏からもらえれば英介死なないから」
シバの嫌な予感っていうクソ怖い予言は一旦おいといて、俺はこんなふうに音奏を恋人にしていいんだろうか?
「えっ?」
困惑する音奏。そりゃそうだ。そんな利害の一致みたいな提案嫌に決まっている。とはいえ、これは俺がずっと曖昧にし続けていた代償かもしれない。
「音奏、俺さ。シバの契約とかそういうの関係なく……俺は音奏に感謝してるし……その」
俺……頑張れ。
「好きだ……。だから恋人になってほしいと思ってる」
人生で告白した回数3回、うちフラれた回数3回。ちなみに、今俺の前にいるのは人気インフルエンサーで年齢だって10歳近く年下の高スペック女子だ。
「音奏でいいの?」
ちょっと真剣な声色にドキッとする。ここで俺はやっと彼女の表情を見ることができた。笑っているような泣いているような可愛いけど不思議な顔。友人の時間が長かったせいか、出会い方が特殊だったせいか、ちょっと恥ずかしくて……俺は頷いた。
「私も大好き!」
彼女はバッと両手を挙げると嬉しそうにブンブンふって満面の笑みを浮かべる。どんな喜び方だよ。
「ごめん、カッコ悪くて。焚き付けられた感じになっちゃってさ。でも俺本気で……」
「カッコ悪くないよ! かっこいいって! 私、ずっと待ってたんだよ? も〜、鈍感な岡本くんを振り向かせるの大変だったんだからね! って……岡本くん?!」
告白が成功し、無事恋人になったというのに俺は床に転がっていた。今までに感じたことのない腹痛に声すら出せないでいる。
「うぅ……いってぇ……」
「英介!」
「大変! 救急車!」
***あとがき***
お読みいただきありがとうございます!
英介が思いを伝えたことで物語もひと段落です。英介の腹痛と共に第2部へと突入します!
読者の皆様に作者からのおねがいです。少しでも「面白い!」「続きが気になる」「ヒロインが可愛い!」と思っていただけたら★やブックマーク、コメントなどしていただけたら嬉しいです。
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