第126話 俺、ピクニックする



「お久しぶりです〜!」


 幸田くんファミリーと合流後、俺たちは成瀬さんを拾ってドッグランのあるキャンプ場へとやってきていた。


「はい、ティーカッププードルのティーくんに。テイムモンスター犬神のシバくん。あらまぁ、ゴールドなのね。ではご利用いただいて大丈夫ですよ。ドッグランが開場している17時まではキャンプ場での焚き火は禁止です。17時以降は、ワンちゃんたちは必ずリードに繋ぎ、ファイアスタンド等あれば焚き火や炊事をサイトの近くてしていただいてもOKです」


「はい、ありがとうございます」


 キャンプ場の説明をうけて俺たちは荷物を持って移動をする。音奏はすでに幸田くんの娘ユキちゃんにメロメロだった。


「ユキちゃんかわいいお洋服だねぇ」


「これ、私の手編みなんですよ」


「え、カナちゃん編み物するの? すごい! 今度教えて〜」


「いいよ、今度旦那さんたちがお仕事の間におうちに来てください」


「是非是非〜、あじゃあひとみちゃんもズル休みしてこよっ」


 笑い合う女子三人。俺と幸田くんは顔を見合わせる。少し大きめのタープを設営し、レジャーシートをペグで止めて、簡易的なピクニックをする空間が出来上がる。


「なんだか楽しそうっすねぇ」


「岡本さん、誘っていただいてありがとうございます。ティーも喜んでて……シバくんのことが大好きみたいで」


 ティーくんはシバの周りをくるくる回って楽しそうにしていた。シバの方はユキちゃんに撫でられてご満悦、子供が好きだからな。


「幸田くん、お昼の準備手伝ってもらってもいいかな」


「うっす。今日はそういえばコンビニのサンドイッチ持ち寄りでしたよね?」


「そうそう、買ってきたのを集めて……じゃあ行くか。音奏、シバをよろしく」


「おっけ〜」


「英介、まかされたゾ。俺、絶食モードしてるしアンゼン、アンシン、カワイイ!」


 シバがひょいと右手を上げる。あまりにも可愛くて近くにいた犬飼いの客たちが悲鳴を上げた。


 ちなみに「絶食モード」というのはシバが最近俺に教えてくれたモードでこのモード発動中は「例の呪い」が誰かに起こることはない。

 なんでもシバがまだ幼かった俺を育てる時に会得したモードらしい。なので、万が一他の犬や子供がシバが「エサ」と認識したものをこぼしてしまったりしても安心なのだ。


 炊事スペースに移動した俺と幸田くんはかまどに火をつける。幸田くんはサンドイッチが入った袋を持ってキョトンとしていた。

 俺は準備していたバターとホットサンドメーカーを取り出し、幸田くんにサンドイッチを取り出すように指示をした。


「サンドを2度焼きっすか?」


「そう、バターを塗ったホットサンドメーカーでカリカリホットサンドにするんだよ。フルーツ系のサンドイッチ以外なら全部美味しくなる」


「うわ〜、まじ天才っす」


「アウトドアは簡単に美味しく。ここはダンジョンじゃないけど……大人数だと洗い物少ない方がいいしな」


「確かに、これ家でもできるっすね」


「あぁ、これ基本ガスも対応だし。バラせるから洗いやすいし」


「へぇ〜買ってみようかなぁ」


「ぜひ」


 卵、ハムチーズ、ツナ。エビカツ、トンカツ。いろんなサンドイッチを全部あったかくホットサンドにして、用意しておいたランチボックスに入れて持ち帰る。

 バターのいい香りに誘われてシバたちが戻ってくると自然とタープの下で俺たちは円を描くように座ると手を合わせた。


「いただきます!」


 ユキちゃんはカナさんお手製の小さいサンドイッチをパクパク食べ、俺たちは熱々のホットサンドをそれぞれ口に運んだ。


「ツナマヨ、あっためると美味しいんですね」


 成瀬さんが目を見開いてもう一口。音奏は熱々のジャムサンドに夢中だったし、幸田くんはエビカツサンドにがっついていた。俺は、熱々のたまごサンド。バターでカリカリになった外側、あっつあつの卵ディップが絶妙にマッチする。

 コンビニの冷たいサンドイッチもいいけれど、一手間加えるだけでこんなに美味しくなるなんて。


「へぇ〜、このホットサンドメーカー一個で。アウトドアって結構気軽にできるんですね。ねぇ、ユキが大きくなったらもっと本格的にやりたいわね」


 カナさんは楽しそうに幸田くんの肩をつつく。幸田くんもまんざらではなさそうで「かっこいいテントとかほしいかも!」と目を輝かせた。

 視線を感じて音奏の方をみると彼女も


「私ももっとアウトドアしたいぞ〜」


 と可愛らしくおねだりをされた。そういえば、働き始めてから、インフルエンサーとしての活動と仕事とであんまりプライベートなキャンプはできてなかったな。

 今度、カメラを回さずに二人とシバとでゆっくりするか。


 一通り食べ終わった後、音奏が気を聞かせてユキちゃんとカナさんをシバとドッグランの方へと誘い出してくれた。


「パパも行こうかなぁ〜!」


 計算外だったのは幸田くんもタープから出てしまったことだが、よく考えれば幸田くんには話す必要はないことなのでラッキーだったのかもしれない。

 その上、タイミングよくティーくんが寝ていたので成瀬さんと俺がタープの下に残った。


「成瀬さん、俺たちDLSとしてしっかりやれてるかな……?」


 俺が彼女を見据えると、成瀬さんは全てを悟ったように小さくため息をついた後「すみません」と呟いた。


「すみませんって……なにが?」


「岡本さんは優しいです。だってあの報告書、こっそり処理してくれていたんでしょう? 私が定時で帰った後に誰にもバレないように。わかりますよ、だって事務職ですもの。本来は1枚の狂いもなく報告書を管理するのも私の仕事……」


「俺は、君を責めるつもりはない。どうしてそんなことしたのか聞きたいだけだ」


「私……」


 成瀬さんはポツリポツリと話し出した。

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