22章 俺、お偉いさんに会う

第119話 俺、やっぱり週末のキャンプがしたい



「すごい、これまじで協会支給なの?」


 音奏は最新型のデジタルカメラを手に目を輝かせた。耐熱・耐水使用でヘルメットにも装着可能な高性能最新型。


「そう、けど俺らのドローン型と違って俯瞰は取れないけど……ほらDLSの仕事は俯瞰で撮るよりも主観で取ったほうがいいし」


「へぇ〜、いいなぁ〜」


 自撮りの画角でカメラを持ってピースをする音奏、今日も今日とて可愛い。


「音奏、俺が働き始めて2週間、今日から週末3連休だ」


「はい、そうですよ〜」


「俺たちと言ったらやっぱりキャンプしようと思うんですけど、なんかリクエストあります?」


「なんで敬語なんですかお代官さまぁ〜」


 ノリノリの悪い顔をしている彼女だが、目元には疲れが滲んでいる。それもそのはず、彼女は最近遅くまでゲーム配信をしているのだ。

 ギャルとゲームという意外な親和性と音奏の明るくて前向きなプレイスタイルがゲーム配信の視聴者層にもウケていて、結構な額の案件もいただいているようだった。


 ちなみに、ゲームの案件は俺がよくやるガジェット系や食品系とは比べ物にならないくらいの単価である。


「最近、お疲れの彼女をリラックスさせてあげたいな〜なんて思ってまして」


「そうしたら……最高に美味しい野郎系ラーメンが食べたいですぅ」


「キャンプじゃなくていい?」


「キャンプもするぅ。ダンジョンの中でキャンプするとさぁなんかこう非日常空間でゆっくりしてる感じがしていい感じなんだよね」


「それは同感。野郎系かぁ……いいアイデアないかなぁ」


 野郎系ラーメンというのは、音奏が大好きなガッツリ系ラーメンの総称である。俺は歳のせいか最近は胃もたれを恐れてあまり足を運ばないが、全国的に多くのファンを抱えていて、野郎系ラーメンに特化したインフルエンサーまでいるくらいだ。


「英介、オレも食いたいなぁ」


 シバが笑顔とヒコーキ耳で尻尾を振りながら近寄ってきたのでもふもふしてると俺の頭の中に一つのアイデアが思い浮かんだ。


「キングブーのダンジョンか」


「へへっ、やっと気がついたな。オレ、あれの骨スキ」


 キングブーというのはどでかい豚のモンスターでSSS級ダンジョンに存在する。大きな声と突進が武器のダンジョンボスで、その体は捨てる部位がないくらいどこも美味しい(シバ談)らしい。

 俺も昔、キングブーのトンテキをダンジョン内で食べたことがあるが、ぎゅっと身が詰まっていて脂身は甘くジューシーだった。


「キングブー? あのでっかい豚モンスターの?」


「そう、キャンプでは豚肉料理を死ぬほど食べて……肩ロースあたりを持って帰って家でチャーシューを作り、野郎系ラーメンを家でとかどうかな〜って」


「それ! やる!」


 即答即決。


「おっけい、じゃあ準備するか」


 ソファーから立ち上がると俺はせっせと荷造りを始める。公務員になってから2週間、久々に広げたキャンプ道具たちはピカピカに磨かれている。豚肉料理と言えばトンテキ、豚汁あたりがいいかな。

 鉄板に飯盒、豚汁なら手鍋と野菜の下処理もしてしまおう。


「なんか、英介くんめっちゃ楽しそうじゃん? 無理してない? 疲れてない?」


「えぇ?」


「だって、久々に働いてたんだし先週はお花見だったし? 大活躍で格好良かったけど、ほらなんていうか疲れてないのかな〜? って心配になっちゃってさ」


「うーん、そんなことはないぞ。どちらかというと、働いている中週末に時間を作ってキャンプに行く……。いつでもいけた頃よりも特別感があってなんだか楽しみなんだ。音奏こそ大丈夫か? 最近案件詰まってたろ。俺のせいで無理してるとか……?」


 俺は反省した。

 というのも、先ほど音奏は「野郎系ラーメンが食べたい」と言っただけなのに俺は勝手に「キャンプで材料を調達して家で作ろうか」なんていう自分勝手なアイデアを出したのだ。

 恋愛偏差値の低い俺、なんて恥ずかしいんだ。音奏は俺のことを気遣ってくれているというのに。


「あははは、おっかし〜。私もおんなじこと考えてたんだよね〜。ガッツリ働いた後、英介くんとキャンプでゆっくりしたいな〜なんて思ってたんだ。ダンジョンの中で非日常空間でさ、2人と1匹でぼーっと美味しいもの食べてビール飲んで疲れを癒すのがサイコーって感じ」


 彼女はそう嬉しそうにいうと、食べたい豚肉料理をスマホで検索し出す。「豚串、サムギョプサル、豚足のとろとろ煮〜」などシバと一緒に無限にリクエストを始めた。

 なんでもネガティブに考える俺と、なんでもポジティブで明るい彼女。いつだって俺は救われる側だなぁ。


「豚串はいけるが、サムギョプサルは荷物が多くなるからバラ肉も持ち帰るか。ちなみに、キングブーの豚足はバスケットボールくらいでかいし、トロトロにはならんぞ」


「え〜! じゃあ豚汁!」


「それは俺も思ってた。作ろう。夜ご飯は豚汁、食い終わったらルー入れてカレーにして朝カレーだ!」


「やった〜!」


「じゃあ、荷造り当番か野菜下処理担当かじゃんけんだな」


「まけないぞ〜!」


 じゃんけんをする俺たちの横でシバがせっせと自分の準備を始める。お気に入りの餌入れを加えてバッグへ運び入れる。

 あぁ、久々の週末キャンプ(仕事後)、めちゃくちゃ楽しみだ。


「負けた〜! じゃあ私野菜の担当ねっ! 英介くんは荷造りよろ〜!」


「はいはい、了解」


*** あとがき ***


お読みいただきありがとうございます!

久々のキャンプと飯テロ回〜お楽しみに〜!



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ぜひ併せて読んでみてくださいね〜。




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