第28話 俺、ギャルと装備品を作る



「んで、まずはその衣装だが……チェンジだ」


「え〜! かわいいのに〜!」


「配信するにはいいかもしれんがその腹出しミニスカでまともにL級以上のモンスターとは対峙できないぞ」


「えぇ〜」


「酸性のスライム、溶解性の毒液を吐くアリ……普通に雑魚モンスターに殺されるぞ」


 音奏はお腹が派手にでた衣装を見てゾゾッと身震いした。


「岡本くんだっていつも黒いTシャツに普通のスラックスじゃん」


「これは俺が大学生の時にL15のダンジョンで狩った鎧蛾の繭を使った特製の装備だよ」


「まじ?」


「まじ。だからSSS級までのモンスターに噛まれても傷ひとつつかない。そして何より洗濯機で洗濯可能だ」


「自慢するところそこじゃないよ〜! ってか岡本くん会社員なんかしなくてもそんなところに入れるなら大富豪じゃん! 意味わかんない!」


「俺、ダンジョンで親父が死んでさ。確かに子供の頃はちょっと裕福だったけど、裕福さの代償にいつでも死が隣にあるのにすごく抵抗があったんだよな。なんというか、冒険者って保険とかないだろ? だから母さん苦労してさ」


「そ、そっか。なんかごめん」


「気にしなくていい。結局、今は冒険者やってるんだしな」


 音奏は俺の黒いTシャツとスラックスを手に取ってもにゅもにゅと触りつつちょっと複雑そうな顔をする。


「私、一応配信者だし……私のファンは露出も求めているというか……」


「俺としては腹も足も出す必要ないと思うけど……」


 彼女の戦い方は遠距離だから、格下のモンスターであれば回避前提。そのため多少の露出をしても問題ないだろう。その上、女配信者という立場からして視聴者からある程度の可愛い衣装や露出が求められるのもわかる。

 ただ、普通に危険なのでやめた方がいいと思う。


「えっ……/// それってもしかしてソクバク……?」


 勝手になんやら勘違いして顔を真っ赤にしている音奏。


「いや、それはだな……」


「わかった。岡本くんがダメっていうならダメだよね! 私衣装変える!」



***



 音奏を連れてきたのは俺が得意先にしている装備ショップだ。


「かわいい〜、ハスキー犬?」


 音奏が指差した看板にはデフォルメされたが描かれている。


「オオカミだな」



 風間装備店は社会人時代からここでモンスターからドロップした諸々を加工してもらっている馴染みの店だ。俺の場合は自分で持ってきたものを加工してもらっているが、加工済みのものも販売している。


「いらっしゃい、おっ。有名人のお出ましだ」


 と言いながら店主の風間さんはシバに犬用の骨型クッキーを食わせてくれる。店主の風間さんは俺と同じくらいの年齢で店を継いだ真面目な男で大の犬好き。看板のオオカミも代々風間家でテイムしているウルフ系モンスターをモデルにしているらしい。

 俺は「すんません」と軽く頭を下げつつもご機嫌なシバの背中を撫でた。


「おや、彼女ちゃんかい?」


「こんにちは! 伊波音奏です」


「かわい子ちゃんだねぇ。矢の加工かい?」


「いいや、今日は既製品を買いに。えっと、彼女の」


 俺は風間さんに事情を話し、案内されて店の奥の商談席に腰をかけた。


「なるほど、遠距離型の冒険者だから回避を前提としつつも丈夫な装備ねぇ」


 風間さんは「ちょっと値は張るけど鎧蛾の繭がついこの前仕入れられたから大丈夫だよ」と申し訳なさそうに言った。


「あの……お値段は大丈夫なんですけどカラーとかって変えられますか?」


 音奏の質問に風間さんは目を丸くした。そりゃそうだ。彼が提示した値段は500万。ギャルがぽんと払える様な値段ではない。


「え、えっと一応カラーを選ぶことはできるけどさらにお値段かかるぜ?」


「いいんです。私も配信者なので可愛さが重要というか……」


 風間さんは「ちょっと失礼」というと立ち上がって奥にある階段をあがっていった。たしか、2階と3階は住居スペースになっていたはずだ。


「ってか、500万ぽーんと出せるのすごいな」


「そりゃ、私配信者歴長いし。それに岡本くんがバズったおかげで広告案件とかも増えたんだよね〜」


 そういえば、俺も収益化したから来月から広告収入が入るんだっけ。ちょっと楽しみだ。


「お待たせ、伊波さんは初めてかな。家内の美彩みさです」


 風間美彩さんはにっこりと微笑むと音奏の向い側にすわって分厚いパンフレットを広げた。


「ごめんね〜、うちの旦那話がわからない堅物で。音奏ちゃん。私が最高の装備品をオーダーしてあげる。彼氏くんの要望通り露出を少なめにすることになるけど、可愛いのが作れるわ。それに、お値段も……タダ!」


「えっ?」


「へっ?」


「おまっ」


 その場いる美彩さん以外の全員がのけぞった。


「お前、鎧蛾のまゆなんて滅多に手に入らない代物であれを買い取るのにうちは450万も払ったんだぞ……?」


「アンタってほんとボンクラよね。装備品を加工する才能はあっても商才はないっていうか……」


 ガーンと頭でも殴られた様に風間さんが項垂れる。風間夫婦は俺と同じくらいの年齢だがまるで熟年夫婦だな。


「ってもよぉ」


「音奏ちゃん。とびっきり可愛い衣装を作ってあげるから胸の一番目立つところにうちの店のロゴ、入れさせてくれる?」


 可愛いデフォルメされたオオカミのロゴをみてテンションが上がる2人。俺と風間さんはすっかり蚊帳の外だ。


「岡本くん、俺らは店に戻りますか」


「そうしましょう。そうだ、矢をいくつか俺も買おうかな」


「おっ、そういえばいいのが入ってるよ。見ていきな」


 俺と風間さんは商談室を出ると店内に戻った。音奏と美彩さんは大盛り上がりであれも可愛いこれも可愛いと楽しそうに話している。

 もしかして、美彩さんも元ギャルだったりして……。真面目な堅物男とギャルかぁ、なんかいい夫婦だよなぁ。


 俺は音奏の満足がいくまで店内をみて暇を潰すことにした。

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