第32話 撫子のコンプレックスは?

 口ではあ〜だこ〜だ言うけど撫子ちゃんは優しい。

 その証拠に、


「食べ終わった食器は置いておいて。私が洗うから」


 と言ってくれた。


「そう? じゃあ、俺はトイレでも洗っておくかな」


 今日は土曜日。

 平日はないがしろにしている家事をやる日だ。


「洗濯機を回そうと思うけれども、撫子ちゃんは洗うものある?」

「そうね。クッションカバーを洗おうかしら」

「はいよ」


 次は掃除機をかける。

 それが終わったら玄関を掃除しておく。


 撫子のスマホが鳴った。

 フランクな口調で会話している。


「は〜い、じゃあ予定通りの時間に集合ね。うん、着いたら連絡する」


 そう言って切る。


九十九つくもさんから?」

「そうよ。私たちも外出の準備をしましょうか」


 実は今日、デートの予定である。

 というのは冗談だが、ショッピングモールへ日用品とかを買いに行く。


『九十九さん』というのは九十九八重やえのこと。

 同じ十七歳で、性交委員として星条せいじょう高校に在籍している。

 愛理たちの競争相手ライバルなのだ。


「久しぶりに九十九さんと会うのか〜。なんか緊張するな〜」

「嘘おっしゃい」

「本当だよ。撫子ちゃんとどっちが巨乳なのか、毎回気になって仕方ない。チラ見していることがバレそうで恥ずかしい」

「ぷっ……変なの」


 当たり前だが女性の性交委員は、


『こんな娘とやりてぇ〜』


 と男子が思っちゃうようなルックスの持ち主だ。

 美意識が高いくせにフレンドリーな性格をしている。

 

「八重ちゃんとペアを組みたかった?」

「まさか」


 愛理は含み笑いする。


「九十九さん、性格が優しすぎるからね。撫子ちゃんみたいに毒のあるキャラが俺にはお似合いなのさ」

「それ、ディスってない?」

「褒め言葉」


 撫子がひじで突いてきた。

 満更まんざらでもなさそうな顔をしている。


「私ってひがみっぽい性格がコンプレックスだったのだけれども……」

「そうなんだ、初耳」

「愛理くんのお陰で自分のことが少し好きになったかも」


 急に少女みたいな表情を向けてくる。

 つい頭をナデナデしたくなる。


「俺が思うに、ネズミ色ってさ、白色に見えたり黒色に見えたりするだろう」

「それが?」

「性格が良いとか、性格が悪いとか、撫子ちゃんが決めるのは変だろう。むしろ俺が決める」


 珍しく……本当に珍しく撫子が口笛を鳴らした。


「やっぱり愛理くんって面白い人ね。一緒にいると気持ちが楽になる」

「見直した? 頬っぺチューしてくれてもいいんだぜ」


 冗談で言ったつもりが、本当にチューされてしまい、愛理の心臓がジャンプする。


「撫子ちゃん、この家は一応監視カメラが付いてるから。夢ヶ崎さんに見られているかも」

「大丈夫、死角だから」

「まったく……」


 もう一発チューされる。

 やっぱり撫子ちゃんは天使だぜ。

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