最終話 一生忘れられなくしてやる!

 珠莉とベッドインした。

 ゴールに辿り着くまで苦労したせいか、抑えてきた興奮が胸の内側からあふれてくる。


「神田さんって、よく見ると可愛いよな」

「バカっ……近距離で可愛いとかいうな〜」

「泣きそうな顔なんて男子の性癖に刺さると思うぜ」

「無理! 無理! 無理! こんな情けない顔、クラスで見せられるかぁ〜!」


 恥ずかしさと情けなさに彩られた珠莉の顔は、耳の付け根までピンク色に染まっており、十代に特有の色気を放っている。

 子供っぽい性格ですら男の征服欲を刺激してくるのだから。


「今まで彼氏いたことないの?」


 ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。


「ないわよ……分かっているでしょう」

「でも、欲しくないわけじゃないんだ?」

「そりゃ……まあ……」

「クリスマスの夜は家族よりも恋人と過ごしたい、みたいな」

「そうね……」

「とびっきりお洒落して、恋人に可愛がってもらうと?」

「あぅ……」


 ちなみに今の珠莉は胸元がざっくり開いたベージュ色のドレスを着ている。

 首のところに指を立てて下へスライドさせると、珠莉の目尻に光るものが浮いてきた。


「ひゃん⁉︎ 一条、くすぐったいよ〜」

「今の声、ちょっと可愛いな」

「この〜、イジワル〜」


 こんなに愛くるしい珠莉の顔、知っているのは自分だけでいいという欲におぼれそう。


「神田さん、大化けしそう」

「どういう意味?」

「ちょっと雰囲気を変えたら男子からモテそう」

「そんな⁉︎ さすがに困る!」

「男に対する免疫がないから?」

「いうな〜、バカ一条〜」


 ふっくらした珠莉の唇を指先でプニプニしてみる。


「神田さんに選択肢を与えます」

「ふぇ……選択?」

「VRセックスの講義ってね、別に最後までやり遂げる必要はないんだよね。あの手この手でシステムを誤魔化して、VRセックスしたと誤認させる方法もなくはない」


 少しコツがいるけれども……。


「それは嫌……」

「へぇ〜、嫌なんだ」

「あっ!」


 珠莉は慌てて口元をガードしたが、出てしまった言葉は取り消せない。


「最後までやってほしいの?」

「じゃないと、生殺しみたいでしょう」

「随分と素直だね。神田さんのことだから渋ると思っていた」

「だって……」


 珠莉がトロトロの顔を背ける。


「こんな機会、一生に一度かもしれないから。逃したら絶対に後悔すると思う」

「じゃあ、可愛くお願いしてみようか」

「私を殺す気か⁉︎」

「できるでしょ。神田さんは優等生だから。恥ずかしいのは一瞬」

「痛いのは一瞬みたいに言うな〜!」


 珠莉はバタバタと暴れたが、無駄な抵抗と悟ったらしく、すぐ大人しくなる。


「忘れられなくしてやる!」

「はっ?」

「私の姿を一条の脳裏に刻みつけて、一生忘れられなくしてやる!」


 珠莉はベッドの上に立ち上がると、ドレスの裾を一気にたくし上げた。

 唖然とする愛理の目の前にセクシーなショーツが降臨する。


「あら、お洒落なランジェリーを身につけているんだね」

「覚悟しなさいよ! 私がエッチに目覚めたの、一条のせいだからね! 責任はちゃんと取ってもらうから!」


 この後、さっそく実技指導に入ったわけであるが……。

 珠莉のプライドが変に炎上してしまったせいで、とことん長引いたのは言うまでもない。


 ……。

 …………。


 それから一夜明けた。


 今日は祝日。

 撫子が朝からケーキを焼いてくれた。


 本人は『ありきたりなスポンジに、ありきたりなクリームを塗って、ありきたりなフルーツを盛っただけの平凡ケーキ』なんて謙遜していたけれども、わざわざケーキを用意してくれるなんて感謝しかない。


「かんぱ〜い!」


 冷やしておいた炭酸ジュースで乾杯する。


 スマホが鳴った。

 心菜からのお祝いメッセージだった。


『サンキュー。心菜が応援してくれたお陰だわ。また三人で遊びに行こうな〜』


 ポチッと送信しておく。


「愛理くん、やればできる男ね。本当に達成してしまうなんてね」

「信じてなかったの?」

「半々くらいかしら」


 真実をはじめとした他の男性性交委員はおおむね苦戦している。

 愛理が頭一つ抜け出した格好といえよう。


「でも、どういう手品を使ったのかしら。あの神田さんを丸め込んじゃうなんて」

「色々だよ。粘り強く交渉した成果ってやつかな」

「ふ〜ん」


 撫子がうっとりと微笑む。


「そうそう、忘れない内にプレゼント交換しようぜ」


 あれこれ迷った末、愛理はバスタオルを選んでおいた。

 どうせなら一回使って終わりじゃない物がいいという判断だ。


「あ、柔らかい」

「でしょ。撫子ちゃん、モコモコしたタオルが好きだから」

「ありがとう、嬉しい」


 撫子からプレゼントをもらった。

 やけに軽いなと思ったらボクサーパンツだった。


「メッチャ意外!」


 デカデカと『愛』の文字がプリントされている。


「愛理くんの名前に愛が含まれるからね。私とやる日が来たら、それを履いてほしい」

「マジで⁉︎ 撫子ちゃんってそういう趣味あるの?」

「うん、彼氏の下着は自分で選びたい」

「ほほう」


 大きめにカットしたケーキを愛理は頬張る。

 クリームの甘さとフルーツの酸味がミックスして美味しい。


「俺もその日、撫子ちゃんの下着を選んじゃっていい?」

「一回目はダメ。二回目ならいいけれども。一回目は私が全部プロデュースする」

「あ、脳内にシナリオがあるんだ?」

「うんうん」


 撫子ちゃんって俺のことが好きなんだな〜、というのが伝わってきて素直に嬉しかった。


「俺って撫子ちゃんのこと、限界まで好きだと思っていたけれども……」

「あら、違うの?」

「今日ますます好きになった」

「もう、愛理くんったら」


 二人でバカやっている時間が一番楽しい。




《作者コメント:2022/06/05》

読了感謝です!

またお会いできたら幸いです!ノシ

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ヤミ恋 〜好きな娘が今日も他の男とヤッている、そして彼女が好きなのは俺だけらしい〜 ゆで魂 @yudetama

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