第18話 一条愛理 vs 生徒会長

 テストの結果が発表された。

 掲示板のところは黒山の人だかりとなっている。


「おっと……失礼」


 愛理も輪の中に入れてもらう。


 目ぼしい反応は主に三つ。

 自分の成績が良かった or 悪かったというやつ。

 上位陣はすげ〜なというやつ。

 そしてもう一点。


「えっ⁉︎ マジで⁉︎」

「今回って会長が一位じゃないの?」

「うわぁ〜、メッチャ接戦だったんじゃね」


 歓声とも落胆ともつかない声の数々。


 愛理はまず撫子の名前を探した。

 半分よりちょっと下にある。


 平均点でいうと六十点くらい。

 本人としては計画通りだろう。


 自分の名前を探す前に……。


「おや? 生徒会長さんじゃありませんか」


 恵の肩を後ろからツンツンした。

 ひぇっ⁉︎ と叫んだおさげ髪が振り返る。


「ど〜も、一条です」

「ッ……⁉︎」

「俺って今回テスト、ちょっと頑張ったのですよ」

「へぇ……」

「なぜか分かりますかね、生徒会長さん」

「それは……」

「あなたのアドバイスのお陰ですよ」


 周りにたくさんの生徒が集まってきた。

 愛理を毛嫌いしている女子が半数くらい。

 恵に苦手意識を持っている男子が半数くらい。


「女子と遊んでばかりいるとバカになる。おっしゃる通りだなと思いまして。VRセックスする回数を泣く泣く落としました」

「そう……だったの……」


 恵の顔は青ざめている。


「俺の順位はどこかな〜」


 下の方から探していく。


「お、半分よりは上か〜」


 恵に聞こえるように言う。


「百位以内でしょ。……五十位以内でしょ。……三十位以内でしょ。もしや一桁もありうるのでは?」


 恵の表情をチェックした。

 その唇はさっきから震えまくり。


「あれ? 見落としちゃったかな? ご迷惑でなければ生徒会長も一緒に探してくれませんかね? どうも最近は目が疲れているみたいで……」


 返事はない。


「ねぇ、生徒会長」


 白い手を握る。

 肩がビクッと跳ねる。


「もしかして体調不良ですか? 俺が保健室までお連れしましょうか?」

「その必要はないわ!」


 恵の声に含まれているのは怒り。

 愛理に対するというより自己に対する嫌悪だろう。


「おっ、見つけました。生徒会長の名前ですが。総合で二位じゃないですか! やっぱり優秀ですね! さすが学園の代表です!」


 その瞬間、周りからどっと笑いが起こる。

 無数のネガティブな感情が刃となり、恵をあらゆる方向から突き刺した。


 二位はすごい。

 偉大だろう。

 周りも一目置く。


 しかし恵の場合は別。

 前回まで一位に君臨しており、本人だって成績の良さを鼻にかけてきた。

 よって二位は完全なる敗北に他ならない。


「気になりますよね。誰が一位なのか。生徒会長を打ち負かしちゃうなんて」


 愛理は一番高いところを指差す。


「吉川恵さんにご質問です。今回の総合一位は誰でしょうか?」

「それは……」

「どんなテスト問題よりもイージーでしょう」

「い……」


 つぶらな瞳が悔しさで揺れている。


「一条愛理……です」


 プライドのへし折れる音がした。

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