第36話 ショッピングデート開始

 パスタ屋を出たところで女性陣は思いがけない提案を切り出してきた。


「えっ? パートナーを交換?」

「そうよ。せっかく男女が二二にーにーなんだし」


 撫子のショッピングに真実が付き合う。

 八重のショッピングに愛理が付き合う。

 そういう案らしい。


「ちょっと待った」


 真実を連れて少し離れる。


「いいか、真実。トークの内容には気をつけろよ」

「どういう意味だよ?」

「撫子ちゃんに向かって九十九さんの不満とか絶対口にするなよ。女子内で情報をシェアされるからな」

「そんなヘマ、俺がするわけないだろう」

「お前は撫子ちゃんを甘くみている」


 超一流のトーク術があるのだ。

 真実の本音なんて、チューブの絵の具をしぼり出すみたいに、あっさり引き出すだろう。


「つ〜か、お前の名前って、どうしてシンジツと書いてマコトなんだよ」

「嘘をつかない男になれっていう両親の願いがだな……」


 ダメだ、こいつ。

 手玉に取られるイメージしかない。


「まあ、いい。俺も九十九さんにネガティブなこと話さないよう気をつける」

「そうだぞ。八重も人畜無害そうな顔して計算高い一面があるからな」

「お互いの健闘を祈ろう」


 二人の拳を合わせておいた。


「お待たせ」

「何について話していたの?」


 撫子が微笑む。


「大したことじゃないよ。女子の扱いには気をつけようって話」

「ふ〜ん、そんなことよりさ、早く行きましょう」


 八重が腕を絡めてくる。

 ショッピングデート開始の合図だ。


「いいか、撫子ちゃん。あまり真実を誘惑するなよ」

「するわけないでしょう。八重ちゃんのパートナーなのだから」


 手をひらひらと振りながら去っていく撫子。

 モールの一角に愛理と八重が残される。


「それで? 九十九さんは何を買う予定なの?」

「リストがあるから。SNSで愛理くんに送るね」


 スマホを開いた。

 化粧品とか、食器とか、靴下とか、ありきたりなアイテム名が並んでいる。


「一条くんの買い物は?」

「俺はいつもネット通販で済ませているから大丈夫。まあ、欲しいものがあったら、その場で声をかけるよ」

「は〜い」


 うっ……近い。

 あざとい上目遣いもキュートだな。


「九十九さんって呼び方、余所余所よそよそしいな〜。八重ちゃんって呼んでもいいんだよ」

「おっと、その手には乗らないぞ。俺を油断させようって作戦でしょう」

「かなり警戒しているんだね。仲間なのに」

「当然でしょう。九十九さんに変なこと言ったら全部撫子ちゃんに伝わるから」

「うわ〜、警戒されたら逆に失言を引き出したくなるな〜」

「鬼かよ!」


 八重は口元に手を添えてクスクスと笑う。


「でも新鮮だよね。互いのパートナーを交換するの。いつも撫子ちゃんが相手だと一条くんはマンネリ化しない?」

「どうかな。今のところマンネリ化してないな。そう言う九十九さんは真実に飽きるのかよ?」

「飽きるのとは少し違うけれども……」


 八重は含みのある言い方をする。


「一条くんとデートしたかったのは本当だよ」

「信じられないな〜」

「このダブルデートを企画したのだって私だし」

「もしかして俺に会いたくて?」

「そうだよ!」


 愛理はガラ空きのおでこにデコピンを叩き込んだ。


「いた〜」

「残念でした。その手の嘘は通用しません」

「あははっ! バレましたか! でも一条くんのこと、ますます好きになりそう!」


 そう言って胸を寄せてくる八重。


「九十九さんってピュアそうな顔して小悪魔だよな」

「そんなことないよ〜」


 こうやって男子のVR童貞をパクパク奪っていくのだろう。

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