第35話 愛って何のためにあるのか
デザートのパンナコッタが運ばれてきた。
とろんとした本体の上に真っ赤なイチゴソースがかかっている。
ちょっと苦手なんだよな、イチゴソース。
味がどうこうじゃなくて……。
見た目が血液を連想させるから。
この話を父親にしたら『さすが俺の息子だな』と笑われた。
童貞もイチゴソースが苦手らしい。
「私と八重ちゃん、ちょっとお手洗い行ってくるから」
男二人で待つことに。
「女子がトイレに行くだろう。男子について話している気がするのは俺だけだろうか」
「ナルシストだな、愛理は。かくいう俺も同意見だが」
「俺たちも女子の話をするか?」
「それがいい」
軽く意見交換した。
同棲生活で困るシーンとか、互いのペアの良いところ悪いところとか。
「やっぱりお風呂上がりだよな。下着姿でウロウロされると気が散ってしまう」
「分かる〜。挑発とは違うナチュラルなエロは心に刺さるよな」
「真実はさ、やっぱり九十九さんのことが好きなの?」
「う〜ん……どうだろうか……」
「えっ⁉︎ 好きじゃないの⁉︎」
「先に惚れたら負けな気がする」
「ああ……」
つまり好きなんだ。
スプーンをガリっと噛んでしまう。
「まあ、真実と九十九さんはお似合いだしな」
「マジで⁉︎ そう思う⁉︎」
「食事中とかさ……」
真実がパスタを元気よく食べていた。
それを見守る八重はニコニコしていた。
「あれは愛犬を見守る飼い主の目だね。真実は気に入られているぞ」
「犬かよ⁉︎」
数秒後、真実がくつくつと笑う。
「そういう愛理はどうなんだよ。日和さんって何考えているかイマイチ分からないだろう」
「言えてる。撫子ちゃんの愛情表現ってストレートじゃないからね。たとえば今朝なんて……」
愛理は手をナイフに見立てて首に当てた。
「ステーキナイフを突きつけてきたんだよね。背後から急に」
「何で⁉︎」
「尋問のため」
「怖いだろう⁉︎」
いやいや、と愛理は首を振る。
「俺に落ち度があったから。それはいいんだよ。でも逆に考えてみる」
「愛理の好きな逆説的か?」
「そう、それ」
この男にナイフを突きつけても関係が壊れない。
それって信頼の裏返しだろう。
「つまり俺と撫子ちゃんは強い信頼で結ばれているんだ。オーバーな要求をしたって嫌われない確信がある」
「まあ……そうなるか」
「ナイフ一本取っても愛情と解釈できる」
「お前って深いな」
「でも愛って何のためにあるのか考えてみなよ。相手を許容するためにあるだろう。愛の反対って不寛容だと思うんだよね」
「その発想は目からウロコだ。何より愛理らしい」
「撫子ちゃんは複雑だから。俺にとって良き教材であり、良きスパーリングパートナーである。共に成長できる相手といえる」
すると後頭部におっぱいが触れた。
撫子ちゃんだ……と思ったら八重だった。
「女子のおっぱいを区別できないなんて、愛理くんもまだ未熟ね。愛が足りてないのかしら」
「はい……すみません」
撫子ちゃんが楽しそうなら何でもいいか、と思ってしまう愛理であった。
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