第34話 勝ったな、と思う瞬間
二人について簡単に紹介しておくと……。
真実も八重も俗にいうブルジョアだ。
親族が会社を持っている。
『久我山ゴム』というのが真実の実家。
日本最大手のコンドームメーカーとして知られる。
八重の実家は『九十九リゾート』。
グループ傘下に多数のラブホテルを
つまり世間のセックス熱が冷めちゃうと、二人の実家にダメージが及んでしまう。
以上、余談である。
……。
…………。
愛理たちはパスタ屋に入った。
お得なランチセットを注文する。
真実が注文したのはミートソースパスタ。
肉類のトッピングを追加オーダーしている。
「真実に質問なんだけどさ、筋トレする人がパスタ食うのってどうなの?」
「最強のアスリート食だぜ。パスタにはタンパク質がたっぷり含まれるからな」
真実が力こぶを作った。
ボディブローを食らうと肋骨を三本くらい持っていかれそう。
「それよりさ、帝明高校の調子はどうなんだよ。夢ヶ崎さんに聞いたが、かなり頑張っているみたいだな」
「いや〜、星条高校といい勝負だと思うけどな〜」
愛理はわざと
「何パーセントだよ、愛理は?」
「真実が教えてくれたら俺も教える」
「じゃあ、せ〜のでいくぞ」
「おうよ」
せ〜の……。
「七十六パーセント」
「四十一パーセント」
二つの『えっ⁉︎』が重なった。
「ちょっと待て、愛理! 七十六って進みすぎだろ⁉︎」
「いやいや! 四十一ってマズいだろう⁉︎」
「そうか?」
「だと思う」
ミッション終了まで八ヶ月しかないのだ。
「でもよ、全部で十二ヶ月あるんだぜ」
「ああ」
「一月あたり十パーセント進めるだろう」
「すると?」
「十ヶ月目で百パーセントになるだろう。残り二ヶ月は予備だよ」
ぷっ!
こいつ、バカだ!
2:6:2の法則。
愛理が考えるところの、
全体の二割は『一条愛理』に好意的
全体の六割は『一条愛理』に中立的
全体の二割は『一条愛理』に敵対的
を分かっていない。
おそらく楽な相手から攻略しているのだろう。
その先に地獄が待っているとも知らずに。
「真実に聞くけどさ、日を追うごとに進捗の伸びが鈍化してない?」
「う〜ん、言われてみるとそんな気がするな」
「VRセックスが嫌いな女子もいるからね」
「確かに……」
グラスを持つ真実の手がブルブルと震えた。
「もしかして愛理、そこまで見越して貯金を増やしているのか?」
「当たり前だろう。夏休みの宿題じゃねえんだ。初日からスタートダッシュしないと終わらない」
スタートダッシュ&全力疾走。
攻めて攻めて攻めまくるのが鉄則である。
とりあえず終わったな。
八重はともかく真実は敵じゃない。
よって星条高校はドロップアウト。
「ちなみに九十九さんは何パーセントなんだよ」
「私は九十七パーセントよ」
八重が自信たっぷりに黒髪をなびかせる。
ところが対面にいる撫子はニヤつく。
「私はもう百五十六パーセントよ」
「えっ⁉︎ ちょっと待って⁉︎ 百パーセント超えって何⁉︎」
「あら、聞いてない? 対象をコンプリートすると百パーセントを超えられるのよ。二週目、三週目っていう具合にね」
そこにパスタ屋のスタッフがやってきた。
「オマール
八重のやつだ。
しかし本人は放心している。
スタッフさんを放置するのも申し訳ないので、
「あ、俺です」
と愛理が代わりに受け取った。
「教えて、撫子ちゃん。今の暫定トップって帝明高校?」
「かもね〜。夢ヶ崎さんが褒めてくれたからね〜。星条高校はビリ争いじゃないかしら」
「くっ……」
勝ったな、と内心でガッツポーズする愛理たちであった。
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