第33話 女子の質問っていうのは……

「モールって人が多いから疲れるよね〜」

「そう? 人口密度でいうと学校と同じくらいじゃない?」

「でもさ、視界に入ってくる情報が多いんだよね。聴覚も同時に攻められるみたいな」

「ああ……」


 そろそろランチの時間帯だ。

 人気のお寿司屋なんかは順番待ちの列ができている。


「よう!」


 でっかい手が肩に触れてきた。

 振り返ると、こんがり日焼けした顔がある。


「久しぶり!」

「おう、久しぶりだな、真実まこと


 趣味でサーフィンをやっていそうな男は久我山くがやま真実。

 星条高校に派遣されている性交委員だ。


 かなり上背があり、愛理より10cmは高い。

 一目で分かるナイスガイだろう。


 その斜め後ろには万人受けしそうなミディアムヘアの女子がいる。

 こっちが九十九八重で、真実とペアを組んでいる。


 八重の服装は白ブラウスに大人っぽい黒スカート。

 斜め掛けバッグが胸元に食い込んでおり色気たっぷりだ。


「真実たちから誘ってくるなんて、どういう風の吹き回しだよ」

「たまには顔を合わせて話したいだろう。高校生らしいことをしようと思ったら、性交委員同士で遊ぶしかないよな」

「その言い方だとエロく感じるぜ」

「それはお前だけだよ」


 会話を聞いていた八重がクスリと笑う。

「一条くんは少しも変わらないね」と。


「九十九さんもな。お肌、綺麗すぎでしょ」

「いやいや、普通だよ」


 この世で女性の謙遜けんそんほど白々しい嘘はない。


「とりあえずお昼を食べるよな」


 と真実。


「そうね。みんなでリクエストを出し合って決めましょう」


 撫子も同意する。


 壁には店舗のパネルが並んでいる。

 和食から中華から洋食まで何でもそろっている。


「真実は何を食べたい?」

「精がつく料理だったら何でもいいぜ。タンパク質希望だな」

「そう言うと思った」

「愛理くんは何を食べたい?」


 撫子が水を向けてくる。


「そうだな。本場風のハンバーガーか豚骨ラーメンかな」

「じゃあ、パスタ屋にしましょうか」


 撫子が言えば、


「そうね、パスタ屋にしよっか」


 八重も合わせてくる。


「あれ? おかしくね? ハンバーガーとラーメン、ほとんど関係なくね」

「パスタも麺よ。西洋風汁なしラーメンなのよ」

「その発想はなかった」


 撫子に丸め込まれる愛理。

 すると真実に肩を叩かれる。


「分かってねえな、愛理は。女子の質問っていうのは、まともに答えたらダメだろう」

「そうなの?」

「八重ちゃんと日和さんの中には答えがあるんだよ。少なくともハンバーガーとラーメンは地雷だろうが。二人のお肌のコンディションにさわる」

「そんな気もする」

「学校でモテすぎて勘が鈍ってんじゃねえのか」

「まさか。頭がおかしい奴だと思われている」

「分かる〜。俺もエロゴリラ扱いだわ〜」

「歩くわいせつ物かよ」


 二人は渋面を浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る