第27話 やっぱり君には勝てない

 恵はとても優秀だった。

 VRセックスのレクチャー中、次々と知識を吸収していった。


「痛そうな反応を見せると男はえちゃいます。実際に痛かったとしてもです」

「指摘してもダメ? 我慢してもダメってこと?」

「そうです。我慢は良くないです」


 ありがちな罠だ。


「もし相手のことを思うなら、甘ったるい声で『もう少し〇〇してくれると気持ちいい』とお願いしましょう。ベターな解決策です」

「恥ずかしい……」

「自分の意志を伝えることは大切です。日常生活でも同じでしょう」


 恵のようなタイプの場合、相手を優先しやすい。

 自分が不快でも我慢しちゃう。


 仕事ならともかく男女の営みにアンフェアな関係を持ち込むのは変だろう。


「じゃあ、実際におねだりしてみますか」

「えっ⁉︎」

「こんなの朝飯前ですよね。優等生なのですから」

「うぅぅぅぅ〜」


 口では嫌がっているが、肌の火照ほてりまでは隠せない。


「あのね……もう少しゆっくり動いてくれると気持ちいいかな」


 恵の顔は真っ赤っか。


「はい、よくできました。上目遣いも似合っています」

「なんか悔しい」


 ふくれっ面が可愛い。


「恵さんは普段ムスッとしていますから。キュートな一面が見られるなんて、俺って役得だな〜」

「変なこと言わないでよ!」

「俺のことも愛理くんって呼んでくれていいですよ」

「バカッ! 呼ぶか!」


 恵は顔を背けてしまう。


「あなたって本当に口達者よね」

「それは誤解です。話していないと落ち着かない性格なのです。いつも余計な冗談を言って嫌われます」

「ふ〜ん、不器用な一面もあるんだ」


 セットしていたアラームが鳴った。

 そろそろ終わりの時間である。


「ありがとね。貴重な体験だったと思う。まさか一条くんが私のトラウマを緩和してくれるとは思わなかった」

「どういたしまして。お役に立てて何よりです」

「私は生徒として何点だった?」

「気になります?」

「フィードバックが欲しい。悪いところも含めて」

「生真面目ですね」


 愛理は苦笑いする。


「じゃあ、九十八点で」

「残り二点は?」

「愛理くんって呼んでくれたら二点加算します」

「くっ……」


 恵は一瞬しかめ面になったが、すぐに腹を抱えて笑い出す。


「やっぱり君には勝てないね、愛理くん」

「恵さんからそう評価されると嬉しいです」


 吉川恵。

 初日から最大の敵だった。


 昨日までのライバルが味方になるという展開、悪くないなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る