第7話 気持ち良くなる魔法

 高級感あふれる部屋でアロマをきまくった。


 パッと見は五つ星ホテルだ。

 スイートルームのような空間におしゃれな調度品が配置されている。


 シャワー室は二つある。

 他にはジェットバスがベランダに付いている。

 景色は切り替えることが可能で、満天の星にもできるし朝焼けの海岸にもできる。


「すごい! 大きい! 高級ホテルみたい!」

「普通に家族で泊まっても楽しいでしょうね」


 ここに案内すると『お城みたい!』と喜ぶ女性は多い。


「どうぞ。楽にしてください」


 佳純をキングサイズのベッドに座らせる。

 愛理はワイングラスを二つ取り出して片方を持たせた。


「こんな手品もできます。メタバース空間ですから」


 パチンと指を鳴らす。

 するとグラスの底からドリンクが湧いてくる。


「炭酸水です。本当はシャンパンで乾杯といきたいですが。まだ実装されていませんので」

「魔法みたい! おしゃれ〜!」


 グラスをネオンにかざす。

 大人の飲み物に見えなくもない。


「乾杯!」


 二つのグラスが鳴る。


「一条くんといると楽しいな〜。これからエッチなことするのに不謹慎かな〜」

「もしかして怖気づきました? いつでもカリキュラムを中断する権利が藤宮先輩にはありますが」

「いや、そういうわけじゃなくて……」


 性交委員をやって三ヶ月。

 充実する瞬間というのはある。


「教えてほしいです。エッチのやり方。一条くんに。VRセックスで」

「手取り足取り?」

「はい……」


 佳純のように無垢っぽい女子の口から『エッチしたい』発言が飛び出る時。

 愛理だけに許された充足感という気がする。


「まずは予習といきますか。といっても漫画やアニメで一度は見た品々だと思いますが……」


 ローション、コンドーム、ローターを見せる。


「女性の方が早熟じゃないですか。こういうの、漫画に出てきますよね」

「そりゃ……まあ……」


 心を開いてくれたのが手に取るように伝わってきた。


 手短にレクチャーする。

 注意ポイントを中心に。


 間違った知識を持っているのは男子に限った話じゃない。


 高いローションと安いローションは何が違うのか。

 性交委員ならメーカーの担当者に負けない知識を持っている。


「じゃあ、部屋を暗くしますね」


 指を鳴らす。

 するとメインの照明が消える。


「始める前に一個お願いしてもいいですか?」

「えっ……何だろう……」


 佳純は心を許している。

 その場合、小さな要求をした方が相手も燃える。


「呼び方ですよ。藤宮先輩と呼びかけるのは余所余所よそよそしいでしょう。終わるまで佳純さんと呼んでもいいですかね」

「うん……まあ……好きにしていいよ」


 そう言う佳純の目はトロけている。


「俺のことも愛理くんと呼んでほしいです。そっちの方が質の高いパフォーマンスを提供できます」

「愛理くん……これでいいかな」

「完ぺきですよ、佳純さん」


 肩に触れてみると佳純の体はあっさり傾いた。

 早く次のページに進みたいと言わんばかりに。


「今だけは恋人の設定でいきましょう。それが気持ち良くなる一番の魔法なのです」

「うん……今だけは愛理くんの恋人になりたい……私だけを見てほしい」

「佳純さんは素直ですね。そんな女性に男は弱いです」


 花弁のような唇にそっとせんをした。

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