第22話 何が一条くんを駆り立てるの

 恵はずっと無言だった。

 先生に叱られた子供みたいに。


 とうとう『VRセックス技能研修室』に到着する。


「どうして……」

「ん?」


 鍵を回そうとした愛理の手が止まる。


「どうして私を助けたの! あんな悲惨な状況から! 私は一条くんや日和さんの敵だったのに!」

「もしかして会長ってマゾ? あの場に放置された方が良かった?」

「そんなわけないでしょう!」


 恵は両肩を抱えてしゃがみ込む。

 撫子がよっぽど怖かったらしい。


「分からないわ。一条くん、私をはずかしめたかったんじゃないの? 私のこと嫌いなんでしょう?」

「あのねぇ……会長ってバカですか?」

「はぁ⁉︎」


 大声を出す元気はあるらしい。


「俺の頭にあるのは進捗率なのです。純然たるセックスモンスターなのです。ヤれちゃう子か、ヤれない子か、女の子は二種類なのです。そして会長をヤれちゃう子に引き込むのが目的なのです」

「なっ……⁉︎」

「もういいでしょう。さっさと終わらせましょう。お互い忙しい立場ですし」


 手を差し出した。

 最後は恵に選ばせるつもりだ。

 やるのか、やらないのか、強制はしない。


「一つだけ教えて」

「一つと言わず何個でも教えますよ」


 恵は眼鏡を外した。

 こぼれそうな涙をハンカチに吸わせる。


「何が一条くんを駆り立てるの。テストで総合一位をとる。簡単じゃないわ。血を吐くほど努力したってことでしょう。だってあなた、前回は大した順位じゃなかったし」

「そうですね。前回は微妙でしたね」


 少し手を抜いた。

 恵を油断させるために。

 わざわざ種明かしする必要はないだろう。


「撫子ちゃんと約束したのですよ」

「約束?」

「VRセックスで進捗率百パーセントを達成するって。そうしたら俺と真剣に交際してくれるそうです」

「待って! 待って! ツッコミが追いつかない!」


 恵は眼鏡をかけて立ち上がった。


「あの子の発言、信じたってこと⁉︎」

「もちろん」

「口約束でしょう⁉︎ 裏切られる可能性が大きいでしょう⁉︎」

「いえいえ、彼女自身も言ったじゃないですか」


 つい数分前。

『約束を破る人間は好きじゃないの。たとえ口約束でもね』

 撫子は皆の前でそう言い放った。


「撫子ちゃんのことを誤解している女子は多いです。根本的に良い子なのです」

「ありえないわ。あの人、どう考えても魔性よ」

「それは重々承知しています」

「なのに信じると?」

「もちろん」


 愛理が撫子に利用されている。

 恵の目にはそう映っちゃうらしい。


「逆に聞きたいですが……」

「何よ?」

「俺がホイホイ女の子にだまされるタマに見えますか?」

「いや、見えない」

「でしょう」


 愛理はえっへんと胸を張る。


「こう言っちゃなんですが、撫子ちゃんと付き合える鬼メンタルの持ち主、この世に俺くらいだと自負しています」

「もう諦めた。一条くんには何を言ってもムダなのね」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「あはは……」


 恵が久しぶりに笑った。




《作者コメント:2022/05/20》

今夜あたりタイトルを差し替える予定です。


頭ヤベェ感はそのままに男女仲にフォーカスした内容となります。

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