第23話 下着の柄まで再現されてる⁉︎

『コウノトリ・システム』をフルアクティブモードに切り替えた。

 ファンの回転数が跳ね上がり、インジケータの数値が忙しく動き始める。


「会長もムービーとかで見たことあるでしょう。これが科学技術のすいってやつです」


 恵がマシンの内部をのぞき込む。


「きれいね」

「同じ感想をもらす人は多いです」


 コウノトリは卵型のシルエットだ。

 稼働中は白色のボディがほのかに発光する。

 新しい生命の胎動みたいに。


「結婚っていいな。夫婦っていいな。子供っていいな。そう思わせることが少子化対策の第一歩なのです」

「政府の偉い人が口にしそうなセリフね」

「受け売りなので」


 恵は笑わなかった。


「怖いですか?」

「今さら逃げたりしたい」

「会長が協力的だと助かります」


 まずは恵の体をコウノトリに接続した。

 各種機器を取り付けて、最後にVRヘッドセットをのせたら完了だ。


「苦しいところはないですか?」

「平気よ。でも実験動物になった気分」

「分かります。自由を奪われる気持ちですよね」


 誰でも最初は『怖そう』『難しそう』と口にするものだ。

 でも二回目からは抵抗がなくなる。


 愛理もスタンバイする。

『メインフレームに接続します……』と機械の音声が流れてくる。


 視界がいったん暗くなった。

 数秒後、トンネルを抜けるみたいに明るくなる。


 噴水の音とアコーディオンのBGMが響いてきた。

 例の西洋風ファンタジー世界に立っている。


 すっかり見慣れたエルフ、ドワーフ、獣人の冒険者トリオがいる。

 口から火を吹く大道芸人も健在だ。


 恵を見つけた。

 地上なのにフラフラしている。

 アイススケートの初心者に見えなくもない。


「会長、こっちです」

「うわっ⁉︎ 一条くん⁉︎」


 恵がひっくり返った。

 イテテ……とお尻をさする。


「痛いけれども現実世界ほど痛くはないんだね」

「物理的なダメージは一部カットされています」


 ちなみに二人のコスチュームは帝明高校の制服だ。

 開発チームにリクエストを送って実装してもらった。


「スカートの中、見えてますよ。白黒のチェック柄ショーツ、可愛いですね」

「言うな! 変態! ……て下着の柄まで再現されてる⁉︎」

「細部まで手を抜かない。日本クオリティです」

「うわぁ……知らなきゃ良かった……」

「HENTAIは世界共通語ですから」

「最新技術のムダ遣い⁉︎」


 恵の手を引いたまま付近を散策する。

 猛スピードの馬車が体を貫通していったので、恵は軽いパニックを起こす。


「実体のないバーチャルです。リアルな夢でも見ていると思ってください」

「でも不思議。一条くんの体温は伝わってくるんだね」

「脳みその錯覚です。単なる電気信号です」


 さっそくレクチャーを開始する。

 まずは操作ウィンドウの使い方から。


「ここで衣装とか髪型を変えられます。眼鏡とかの小物も脱着できます。試しに俺でやってみると……」


 剣士、魔法使い、盗賊、神官、竜騎士、原始人……とコスチュームを順に切り替えてみる。


「どうしました?」

「いや、一条くんの体って思っていたより筋肉質なんだなって。バーチャルだから水増しされている?」

「いや、現実世界でもこんなものです」

「へぇ〜、全然知らなかった」

「パワーユーザー権限を使えばボディビルダーみたいに増強することも可能です。こんな風に」


 愛理の首から下が一瞬でムキムキになる。


「やだっ! 気持ち悪い! 日本人離れしている!」

「会長もムキムキ原始人にパラメータ調整しましょうか?」

「やめて! 死にたくなるから!」

「冗談ですよ」


 ミッションの第一弾。

『吉川恵をメタバース空間へ連れて行く』は順当にクリアできた。

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