第5話 ファンタジーの世界へ
西洋風ファンタジーを模した街に降り立った。
雑踏のざわめきに混じるのはアコーディオンのBGM。
二頭立ての馬車が走っている。
噴水のところで
大道芸人がおり、ジャグリングしつつ口から炎を吹く。
走り回る子供たち。
追いかけるのは一羽のニワトリ。
「藤宮先輩、こっちです」
パニックを起こしている佳純を呼んだ。
「なんかビックリ! 普通の繁華街に行くと思った!」
「何種類かステージがあります。東京もありますし、江戸時代、古代中国、南国のリゾート、マチュピチュの遺跡、海賊の隠れ島……」
愛理は空間に手をかざす。
青白い操作ウィンドウが開く。
『ステージセレクト』をタッチするたび景色とBGMが切り替わる。
「これってRPGみたいに冒険できるのかな?」
「はい、できますよ。といっても試作品なので、NPCはすり抜けますし、街のマップも半径五十メートルしか存在しません」
エリアの限界まで進むと透明な壁にぶつかるのだ。
「細部までリアルなんだね。
「本物と区別できない世界を目指していますから。いずれ現代人は一日の半分をメタバース空間で過ごします」
ステージを『アンデッドワールド』に切り替えてみた。
ガイコツ剣士の隊列が二人の前を横切る。
「ひぇぇぇッ⁉︎」
「ホログラフィと一緒です。単なる映像データなので怖くありません」
「びっくりしたよ〜! 口から心臓が飛び出るかと思った〜!」
佳純が思いっきり抱きついてくる。
「映画の中みたいでしょう」
「一条くんとは普通に接触できるんだね」
「コウノトリが神経系に信号を送っています。触れているように錯覚するのです」
「へぇ〜、不思議。まったく違和感がないから」
「今ですと俺の腕と藤宮先輩の大胸筋に信号が伝えられていますね」
「うっ……恥ずかしい……」
愛理はステージを西洋風ファンタジーに戻す。
「自由に歩いてもいいですよ」
「ちょっと待て⁉︎ 勝手にステージを変えない⁉︎」
「もちろん」
佳純は噴水の周りをゆっくりと一周した。
元のポイントに戻ってから自分の衣装を気にする。
「あ、可愛い」
「女性召喚師のコスチュームです」
愛理は操作ウィンドウをタップ。
ストレージから『姿見鏡』を出してあげた。
「ゲームデザイナーさんの力作です」
「すごい! すごい! 本当にゲームのキャラクターみたいだ!」
全体に花をあしらったワンピースドレスを着ている。
短めのポンチョコートにはフードが付いている。
「コスチュームも多種多様です。剣士、弓使い、盗賊、神官、貴族、商人、村人……」
これもワンタッチで切り替えられる。
「一条くんの衣装は?」
「執事ですね。ほら、燕尾服でしょう」
「本当だ! 格好いい!」
愛理は『踊り子』にタッチする。
すると佳純のコスチュームが扇情的なドレスに早変わりした。
「やだ〜! これは恥ずかしいよ〜!」
「でも似合っていますよ。藤宮先輩は背が高いですから」
「周りの人は無反応なんだね。なんか変な気分」
男性NPCの四人組が立ち話している。
佳純はその輪の中に入ってみるが
「男性NPCが若い女の子に興味を示す。それには高度なアルゴリズムが必要なのです」
「なるほどね」
愛理は『舞踏会用ドレス』にタッチした。
佳純のコスチュームがワインレッドのロングドレスに変わる。
「あ、大人っぽい」
「子供の時間は卒業ですから」
近くの建物を指差す。
木の看板には『宿屋』の表記があった。
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