第52話 人間とケダモノの境界線
学校にいると男子たちの世間話が聞こえてくる。
中には撫子に関するトークもある。
「昨日、日和さんとヤったのだが……」
一人の男子がいう。
「やっぱり最高だよな」
「頼んだらヤらせてくれる女の子って天使だぜ」
「そうそう、イケメンじゃない俺らの相手してくれるってだけで神」
VRセックスは男子に好評である。
女性に対する恐怖心が和らいだとか。
彼女を作ってみたい気分になったとか。
ポジティブな意見が多い。
「卒業するまでもう一回できるかな」
「何なの? お願いしたいシチュエーションとかあるの?」
「あ〜、エロ漫画に出てきそうな展開、やってほしいかも」
なんだろう……。
ちょっと胸がムカムカする。
彼らに対する怒りとも撫子に対する怒りとも違う。
自分だけ外側にいるような寂しさ。
それに近い気がする。
「あ〜い〜り〜く〜ん!」
背後から急にハグされる。
「ああ、久慈先輩」
「どしたの? ぼうっとしちゃって。珍しいね」
「いや、ちょっと疲れているのですよ」
初姫の髪がうなじに触れてこそばゆい。
「だったら私とパコって気持ち良くなろ〜」
「いや、ますます疲れるでしょう」
「私が奉仕してあげるから」
「その発想はなかったです。いつも奉仕する側なので」
初姫はセックスが上手いから悪くない提案という気もする。
男子たちの笑い声が弾けた。
『3Pとか4Pできたらいいのに』みたいな話だ。
「愛理くん、もしかして怒っているの?」
「そういうわけじゃないですが……」
「でもさ〜、相方ちゃんが玩具みたいな扱いされて内心ブチ切れているんじゃないの? あの手のトークって性的に搾取するってやつじゃないの?」
「そうですかね」
「そうだよ〜。血管が浮いてるよ〜」
初姫の指が首筋に触れてくる。
「でも、彼らが口にしているのは願望ですから。そこに悪意がない限り、発言の自由は保障されているでしょう」
「またまた〜。真面目なこと言っちゃってさ〜」
初姫が首の付け根にキスしてきた。
背筋にゾクっと
「我慢するのは良くないよ〜」
「先輩、校内でキスするのは校則違反でしょう」
「私が学校のルールを守るような人間に見えるかね?」
「いや、見えません」
「それにさ〜、考えたんだけどさ〜」
初姫のあごが愛理の肩に乗ってくる。
「動物って
「まあ、適齢期のメスを前にして我慢できるのは、人間とケダモノを分けている象徴でしょうね」
「だからって我慢しすぎると病気になると思わない?」
「そのために風俗やアダルトコンテンツが発展してきました」
「そしてコウノトリ・システムが誕生したと?」
「俺はそう思っています」
耳の穴に、ふぅ〜、と湿っぽい息が吹きつけた。
「愛理くんって、リアルの方は童貞なんだっけ?」
「そうです」
「私と一回リアルでやってみようよ」
「それは規則で禁止されています。俺らは準公務員みたいな生き物なので」
「でも、誰にもバレないっしょ」
「まあ、バレないでしょうね。調子に乗って周りに言いふらさなかったら」
初姫が声に出して笑った。
「ちぇ〜、愛理くんを口説くの難しいな〜。今日もVRセックスで我慢するか〜」
こうして初姫とVRセックスするの、そろそろ十回目か。
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