第62話 ようやく見つけた共通点

 ドリンクメニューは大まかに三種類あって、カフェ系、フルーツ系、フラッペ系だった。

 カフェにはホットとアイスがあり、他にはトッピングがゴチャゴチャと用意されている。


「じゃあ、俺はアイスココアにしようかな。トッピングのクリーム増量とヘーゼルナッツをお願いします。神田さんは?」


 珠莉は抹茶のフラッペを頼んだ。

 チョコチップとかを足してもらう。


「いや〜、クラスメイトとカフェなんて新鮮だな〜。青春している気がするよ〜。神田さんもそう思う?」

「別に……」


 ご機嫌ナナメの珠莉であるが、フラッペが出てくると表情が変わった。

 顔に出やすいタイプなのだ。


「こっちの席が空いている」


 さりげなく手首をつかんだ。

 すると珠莉の肩がびくりと震えて、ドリンクを落としそうになる。


「あっぶね〜」


 愛理は間一髪でキャッチ。

 傾いたドリンクを持ち主に返してあげる。


「神田さんってもしかして……」

「うぅ……」

「男子に触られたら頭が真っ白になる人?」

「そうよ……悪い?」

「別に〜」


 珠莉の口ぐせを真似したつもりだが、あまり似ていないらしく、キツく睨まれてしまう。


「分かっているわよ。自分が欠陥品という自覚はある」

「そうなの? 欠陥品なの?」

「だって、そうでしょう」


 結婚とかに支障があるから。

 そう言う珠莉の声は弱い。


「神田さんって、もしかしてレズビアン?」

「そんなわけない!」

「だよね」


 体質的に男が苦手らしい。

 その手の人間がいるのは知っていたが、こうして話すのは初めてだ。


「でも女子校に通おうとは思わなかったんだ」

「そりゃ……まあ……逃げみたいだし」

「へぇ〜、偉いんだね」

「何でよ?」

「だって、弱点を克服したい気持ちがあるってことだろう。少なくとも今よりは良くなりたいって」

「…………」


 珠莉はうつむいてしまう。

 ドリンクを持つ手が若干震えている。


「一条には言われたくない」

「まあね。俺とか撫子ちゃん、異性に抵抗がない側の人間だからね」


 珠莉とは真逆の生き物。

 煙たく思うのが自然だろう。


「そんな俺だからこそ神田さんの力になれるんじゃね〜かな」

「えっ……」

「変なこと言った?」

「どうして。私は今日まで一条のことをバカにしてきたのに」

「俺は過去にこだわらない主義なのでね」

「うわぁ……」

「とりあえず座ろうぜ」

「うん」


 すぐ横を別の高校の女生徒が通りかかった。

 珠莉は大慌てで顔を隠してしまう。


「そんなに恥ずかしいことかな。普通にデートしてる男女と変わらないでしょ」

「だから問題なのよ。自意識過剰って言いたいわけ?」

「そうじゃないが……」


 愛理はテーブルの下の脚をクロスさせる。


「神田さんも色々と苦労しているんだな、と思ってさ」

「悟ったようなことを言うのね」

「お互い様だろう」

「うっ……」


 珠莉が恥じらう。

 二人の共通点をようやく見つけた気がした。

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