第63話 天のお告げみたいなやつ

 ドリンクを飲み終わった直後。


「これ、返しておく」


 珠莉がテーブルにお金を置いた。

 ちょっと不貞腐れたような態度に思えた。


「何これ?」

「ドリンク代」

「別にいいよ。誘ったのは俺の方だし」

「受け取りなさいよ。じゃないと私が乞食こじきになってしまう」

「でもなぁ〜」


 愛理は頭の後ろで指を組む。


「それで? 私に相談したいことがあるんでしょう」

「そうそう。忘れていた」


 スマホのメモ帳を開いて珠莉に見せる。


「神田さんだったら、この中で何のアイテムが欲しい?」

「入浴剤……バスタオル……紅茶セット……微妙な価格帯のアイテムばかりね」

「女の子にプレゼントしないといけない」

「それって日和さんのこと?」

「そうそう」

「うわっ、最低」


 珠莉はスマホを返してくる。


「他の女に聞くのはありえないでしょう。日和さん、可哀想」

「でも俺、女の子の欲しいものとかイマイチ分からないんだよね」

「だったら鉛筆でも転がして決めなさいよ」

「それはナイスアイディアだ」


 愛理は指を鳴らす。


「どうする? コウノトリ、体験してみる?」

「これから学校へ行くってこと?」

「善は急げって言うだろう」


 この時間だと残っている生徒も少ないしね、と付け加えておく。


 珠莉はこめかみの部分を押さえた。

 いつもは勝ち気な目が明らかに泳いでいる。


「優しくしてあげるぜ」

「そ〜ゆ〜のが気持ち悪いのよ〜」

「でもよ、俺を克服したら、他の男子はオールオッケーになると思わないか?」

「その発想はなかったわ」


 もう一押しだな、と感じた愛理はカバンから筆箱を取り出した。


「ここに一本の鉛筆があります」


 珠莉の前に突き出す。


「六面ある内、一面だけメーカーのロゴが入っています。俺がこれを振るから、メーカーのロゴが出たらVRセックスの講義を受けない?」

「出るわけないわ。確率は六分の一よ」

「じゃあ、交渉成立だな」

「ちょっと待って。小細工していないか確かめる」

「ほらよ」


 愛理は鉛筆を手渡す。

 珠莉が一回転がすと何もない面が出た。


「変なところはなさそうね」


 鉛筆が返ってくる。


「いくぜ」


 愛理の手から六角形が転がった。


 止まるまで三秒。

 やけに長く感じられる。

 愛理ですらそうなのだから珠莉はもっと長いだろう。


「おっ」

「なっ……⁉︎」


 メーカーのロゴが出た。

 珠莉の椅子がギギっと鳴る。


「嘘よ、ありえない」

「でも、六分の一を引いた」

「操るコツみたいなものがあるの?」

「あるわけない。俺が思うに、これは天のお告げじゃないかな」

「くぅ〜」


 愛理は持ち上げた鉛筆をくるりと回す。


「神田さんは優等生だから。約束は守るよな」

「分かっているわよ。上等じゃない」

「そうこなくっちゃ」


 最後のピースを手にした愛理はニヤリと笑った。

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