第61話 俺の申し出を受ける義務がある

『プレゼントって予算いくらくらい?』

『二千円以内にしましょう』

『えっ、二千円でいいの?』

『安い方が気軽でいいでしょう』

『それは一理あるな。背伸びするのも変だしな』


 撫子は席に戻りかけて一度振り返った。


『こういうの、気持ちが大切だしね』


 それから数時間後。

 愛理は雑貨屋へやってきた。

 放課後の時間帯だから、中学生や高校生のお客さんが多い。


 同じ制服の人もいる。

 向こうが手を振ってきたので愛理からも振り返しておいた。


 う〜ん、分からん。

 撫子ちゃんって何が欲しいんだろう。


 普通に考えたら美容に良さそうなアイテムか。

 でも一通り持っていそうな気がする。


 調理器具はアリかもしれない。

 クッキーの型とか、ワッフルを焼く機械とか。

 一緒にお菓子を作るのも楽しそう。


 他にはお風呂で使えるアイテムか。

 鉄板という気もするが、入浴剤も選択肢だろう。


「なあ、神田さん。女の子って何が喜ぶんだろうな」

「うわっ⁉︎ びっくりした⁉︎」


 たまたま隣にいた珠莉が飛び跳ねる。

 その手に握られているのは文房具。


「よっ」

「何で一条がここにいるのよ⁉︎」

「偶然ってやつだろう。俺にも自由に買い物する権利くらいはある」

「くっ……」


 珠莉は一人だ。

 最近のゴタゴタに疲れているのか、やや疲れた顔をしている。


「神田さん、もしかして近ごろ寝不足?」

「誰のせいと思っているのよ」

「それは申し訳ない」


 愛理は店舗の二階を指差した。

 おしゃれなカフェが併設されている。


「神田さんってこの後に予定あったりする?」

「別にないけれども……」

「じゃあ、何か飲んでいかない? 俺が奢るからさ。ちょっと相談したいことがあるんだよね」

「はぁ⁉︎」


 珠莉がいつものごとく吠える。


「私とあんた、敵同士でしょう! 一体、どういう神経しているの⁉︎」


 すると店員さんがやってきた。

 珠莉に向かって『すみません、他のお客様がおりますので、店内ではお静かにお願いします』と注意した。


 恥ずかしさのあまり真っ赤になる珠莉。

 愛理が『ごめんなさい、店員さん。俺と彼女、久しぶりに再会したのです。つい興奮してしまい……』と詫びておいた。


 店員さんが去っていく。


「一時間前って、久しぶりに入ると思う?」

「いや、入らないでしょう」

「だよね」


 愛理はしつこく二階を指差す。


「緊張したせいで喉が渇いた」

「私のせいって言いたいわけ?」

「神田さんには俺の申し出を受ける義務があると思うんだよね」

「はぁ……どうして一条は……」

「少し見直した?」

「そんなわけないでしょう」


 珠莉はやれやれ顔で首を振る。


「奢りって言ったわよね。一番高いドリンクを頼んでやる」

「いいよ。何杯でも頼みなよ」

「こいつ……」


 思いっきり舌打ちされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る